『DOCTORS〜最強の名医〜』(テレビ朝日系)の森山院長や大河ドラマ『真田丸』(NHK)の北条氏政など、エキセントリックなクセもの役で日本中を沸かせる高嶋政伸。

臨場感を知るためにプロに殴ってもらう

 あの顔芸や怪演は、いかにして作られているのか。本書でも「怪演を生む役作り術」が明かされているが、根底にあるのは「わからないことはそのままにしておけない」という探求心だ。

『おつむの良い子は長居しない』(新潮社/税込み1925円)高嶋政伸の自身初となるエッセイ集。大反響となった「インティマシーコーディネーター」を含む20本を収録。
【写真】ジョン・レノンやフランク・シナトラとも交流があった高嶋家の家族写真

「例えば台本に『殴られて火花が散る』とあっても、わからないじゃないですか。だからプロの格闘家の方にお願いして、いきなり殴ってもらいました。そうしたら、火花ではなく、大量のワサビを口に入れたような感覚だとわかって。

 他にも車に轢かれる感覚を知るため、スタントの方の協力で実際にぶつかってもらったり。視覚障害者の役のときは、完全に目隠しをして渋谷や新宿の街を歩きました。点字ブロックや音声案内がどれほど大切か、身をもって実感しましたね」

 すべてを自分の身体で確かめないと気が済まない。その徹底した役作りが、圧倒的な存在感を生んでいるのだ。

「まだまだいろんなことを体験したいですね。今は『火吹き』の練習をしたいと思っているんですが、妻に全力で止められています(笑)」

 40年にわたる役者人生を支えてきたのは、数々の偉大な先輩たちからの言葉だった。

「偉大なレジェンドたちの言葉を、どうしても残しておかなければと思ったんです」

 まず名前が挙がったのは、芸人の山田邦子。かつて父と一緒に出演した番組で、高嶋の面白さにいち早く気づき、自身のコント番組や司会の仕事に取り立ててくれた。

「大恩人です。邦子さんが『面白い子がいる』と引き上げてくれて、その司会の仕事を見ていたプロデューサーがオーディションに呼んでくれて、『HOTEL』の赤川一平役につながったんですから」

 その『HOTEL』で共演した故・松方弘樹さんは、豪快なイメージとは違い、芝居にとても誠実な人だった。高嶋のアップの演技をじっと見て的確な助言をくれ、放送後にはわざわざ父・忠夫さんにまで連絡を入れてくれたという。

 そして、故・丹波哲郎さんから授かったのが「芸能界を生き抜く3つの“K”」だ。

「『ケンカしない、ケガしない、ケチらない』。この言葉は今も大切にしています」

 シンプルながら本質を突いたこの「3つのK」が、役者・高嶋政伸の根幹を支えている。私生活では現在、8歳と4歳の男の子を育てる良きパパでもある高嶋は、今年10月で還暦を迎える。

「また0からのスタートです。新人に戻ってやらせていただきたいと思います。

 人間って、冷蔵庫みたいなものだと思うんです。もう中身が何もない、終わったと思っても、よく探して温め直せば、まだおいしく食べられるものが眠っているかもしれません。この本を読んで、皆さんにもそんな『おいしいもの』を見つけてもらえれば」

 人生の酸いも甘いも噛み分けた、笑顔の奥のすごみ。還暦を迎え、さらに深みを増す人生劇場からますます目が離せない。
 
 取材・文/高松孟晋 撮影/佐藤靖彦

たかしま・まさのぶ 
1966年東京都生まれ。'85年舞台『とことん優しくそばにいて』で俳優デビュー。'88年、連続テレビ小説『純ちゃんの応援歌』に出演。'90年に放送開始の『HOTEL』で若きホテルマン・赤川一平を演じる。'91年、映画『ゴジラvsビオランテ』で日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。また'95年から朗読会「Reading Session」を主宰するなど多方面で活躍している。