急性心不全のため亡くなった中尾さん
闘病しながらも仕事を続けていた中尾さんだが、2024年5月16日、急性心不全のため亡くなった。「まさかそんなに早くにいなくなるとは思っていなかった」と池波は語る。
「最期は延命処置をしない、自宅で過ごしたいというのが彼の希望でした。お葬式も派手にするなと言われていたので、それを叶えるのが私の役目。
彼の友人・知人一人ひとりに、亡くなったことをお伝えできなかったお詫びの手紙を出しました。その後も遺品を整理し、彼が描いた絵を美術館へ寄贈したりして、終活だけで1年半は過ぎていきました。一人になってしょんぼりする暇もなかったんです」
今年5月で三回忌を終え、中尾さんの遺品整理は一段落したが、今度は自分自身の終活にも向き合わなければいけない。
「子どもがいないので後見人選びが必要で、遺言も書き換えました。でもモノの整理はできていなくて、大好きな料理の道具はむしろ以前より増えています。終活は断捨離ではないので、捨てるのではなく、“使いやすいものに変えていく”というのが私の考えです。
一人になったことから、大きな器を手放して、小さな器を買い足したり。道具も進化しているので、買い替えて良かったと思うものがたくさんあります」
一人になっても料理は自分で
池波は中尾さんに手の込んだ料理を用意していたことでも知られていた。一人になってからしばらくは料理を作る気が起こらず、買ってきたものを食べていたが、長くは続かなかったという。
「やっぱり料理がしたくなって、結局、一人分でも自分で作るようになりました。鶏肉1枚を今日食べる分と、翌日用に漬け込む分とに分けて調理をしたり、食材を余らせない工夫が楽しいんです」
食に対する好奇心は衰えず、通信教育で「食育インストラクター」「野菜コーディネーター」の資格を取得。知識を得たことで、池波の料理はよりシンプルで素材を生かすものへと変化した。
「凝ったものを作るよりも、シンプル・イズ・ベストにたどり着きました。野菜はとれたての生が一番おいしいですし、夏野菜は火を入れないほうがクセがありません。素材と相談しながら作ると料理はおいしくできあがります。大根の皮を厚くむいて、それを窓際で干して切り干し大根にしたり。料理をすることが一人の時間を豊かにしてくれています」
中尾さんの看病をしていたころは、起床から就寝まで、すべてが夫のためのローテーションで組まれていたが、今はすべてが自分の時間になった。
「まず起きたら蒸しタオルで洗顔をして、ストレッチと体操をします。自分の体調と相談しながら、『今日は少しキツい』と感じたときには途中でやめて、無理はしません。朝食を終えて、コーヒーを淹れてひと息つく。自分一人だけの今の時間は中尾が最後にくれた“休暇”だと思って楽しんでいます」
一人になってから、これまでとは違う交友関係も広がった。以前は夫婦単位での付き合いが中心だったが、今は同世代の女友達と連絡を取る機会が増えたという。
「昔の友達もいつの間にか独り者になっていて、交流が再開したり。うちに料理を食べに来てもらうこともあります。中尾の同級生の集まりにも参加させていただいて、年上の友達もできました」
一人になると「習い事をしたら?」とすすめられることもあるが、池波はやりたくないという。
「歌や踊りは仕事でずっと頑張って努力してきたことなので、今さらやりたくないんです(笑)。サークルなどに入って、噂話に花を咲かせるのも好きではなくて。映画館や美術館に一人でふらっと出かけることが多いですね」
最近、面白かった映画は、カンヌ国際映画祭で最優秀女優賞を受賞した、濱口竜介監督の『急に具合が悪くなる』だ。
「濱口監督は撮影前に徹底した台本読みをすると聞いて、その手法にも興味を持ちました。昔は勉強のために映画を見に行っていて、純粋に楽しめませんでしたが、今は気楽に見られます。韓国ドラマも見ますが、情緒的な恋愛ドラマよりも、エネルギッシュで野心的な作品が好みです」



















