夫の魂はいつもそばに新しい伴侶はいらない

 凛とした美人で、料理がうまく、教養が深い池波。誰から見ても魅力的な存在だが、今後、新しいパートナーを得る可能性はあるのだろうか。

「100%とは言わないけれど、99・9%ないでしょう(笑)。23歳で結婚してから48年間、常に夫のペースに合わせて生きてきました。70代になって初めて、すべてを自分一人のテンポで決められる心地よさを感じられるようになったので、また誰かに合わせて生活することは『冗談じゃない』という感じです(笑)。お友達は欲しいけれど、惚れた腫れたがくっつく関係はいらないですね」

 中尾さんは実家のお墓を弟に譲っているため、今の住まいの近くのお寺にお墓を建てた。中尾さん自身がデザインし、縦ではなく横型で、家名は刻んでいない。池波はお墓参りのたびに「ここに中尾はいないな」と感じている。

「お墓参りに行くと、お墓の横に立って『いいだろう、このデザイン』と中尾が説明している姿が目に浮かびます。生前から自慢していましたから(笑)。でもお墓でじっとしているのではなく、せっかく自由になれたんだからと、絵を描きたかったヨーロッパへ行ったり、好きなところに飲みに行っているに違いありません。そんなふうに考えると私も元気になって、心が休まるんです。痛みから解放されて、楽しめるようになってよかったねって」

 家で映画を見ていても、中尾さんに話しかけてしまうという。

「『ちょっとがっかりだったよね』とか。そんなコミュニケーションが、今の私を一番安定させてくれているんです」

 これまでは、夫婦でよく出かけていた場所には、なかなか足が向かなかった。

「中尾は今もそばにいて、どこかに遊びに行ってもいつも一緒にいるーー。そういう感覚になってからは、やっと少しずつ出かけられるようになってきました」

 中尾さんの魂をそばに感じながら、新しいステージを一人で生きていく池波。

「これからは誰かに合わせるのではなく、自分の興味のままに動いていきたい。でも体力だけは自分の責任でしっかりと保ちながら歩んでいきたいと思っています」

取材・文/紀和 静 撮影/近藤陽介