また、音楽を通してさまざまなドラマと接することが、ピアニストとしての醍醐味だとも語る。

「何をやっても無駄なことってない」

「介護付き老人ホームでコンサートをしたのですが、私の演奏のあと、車椅子に乗った女性がしきりとピアノを指さしたそうなんです。職員の方がピアノの前に連れて行くと、私が弾いた曲をそのまま流暢に弾き始めたと。認知症が進んだ方だったのですが、経歴を調べたら音大のピアノの教授だったそうです。

 また、余命宣告をされた方が、私のコンサートでリストの『ラ・カンパネラ』を聴いて感動し、ご葬儀でも同曲を流したと、ご親族が報告してくれました。多くの人の人生の、いろいろな瞬間に音楽が必要とされていると思うと、励みになりますね

 ファンを魅了するのは、演奏だけではないらしい。演奏の合間のトークにも磨きをかけているというが、そのヒントはお笑い芸人のコントや落語だという。

ライブを多く行っているサンドウィッチマンさんやバナナマンさん、東京03さんが大好きで。落語は飛行機の機内サービスでよく聴きます。こっそりお笑いライブにも足を運んで、場の空気や目の前のお客さんの心をつかむテクニックが勉強になるんですよ(笑)

 多いときは年間約150回のステージをこなす多忙な日々のリラックス法は、オンとオフをきっちり分けることだという。

「休日はピアノを弾きません。祖母から受け継いだハンガリーの郷土料理を本格的に作ったりしてます。手ごねのパスタが入った『グヤーシュ』という料理を作るときに無心で生地を作っていると、音楽に対する思考の整理にもいいんです。

 趣味は多く、過去には華道も。日本文化を学ぶことだけでなく、これまで音楽でしか表現できなかったものを、花を活けることで、ビジュアルで訴えていく。ステージでの空間の質の捉え方など、演奏に対する視点も見えてくる。何をやっても無駄なことってないんですね。茶道にも挑戦してみたいです

 いよいよ始まる15周年記念コンサート。意気込みは?

私にとっての15年はやっとスタート地点に立ったという感覚。次の15年を見据えた今、私にできることは、すでにある偉大な作曲家たちの作った曲を、そのままの形で皆さんにお届けすることです。瞬間芸術である生演奏は弾いたらそこで消えます。でも、不要なものは淘汰されてきた歴史の中で、音楽が残ってきたのは必要とされているからなんです

 であれば、残していかなければならない。

身近な人たちや愛好家たちに向けて演奏するだけではなく、歴史を残す者という当事者意識で、ピアノや芸術をつなげていかなければ、音楽家としてはダメなんです

 こう言い切る瞳の奥に強い士気がみなぎる。彼はやはり、武士なのか、それともプリンスか? どちらにしても音楽の申し子であることに変わりはない。

取材・文/合田みれい 

かねこ・みゆじ 1989年、日本人の父とハンガリー人の母のもとに生まれる。6歳より単身ハンガリーに留学。祖父母の家からバルトーク音楽小学校に通い、11歳より飛び級でハンガリー国立リスト音楽院大学に入学、16歳で全課程取得後、日本に帰国。東京音楽大学付属高校に編入、同大学を首席で卒業、同大学院修了。精力的な演奏活動の傍ら、多くのコンクールで優勝。映画『蜜蜂と遠雷』にて主人公のピアノ演奏を担当するほか、テレビ、ラジオなど多くのメディアに出演。『日本デビュー15周年記念 金子三勇士 ピアノ・リサイタル』10月18日(日)16:00/会場:東京オペラシティコンサートホール『トマーシュ・ネトピル指揮 プラハ交響楽団 ニューイヤー名曲コンサート』2027年1月15日(金)19:00/会場:サントリーホール チケット購入先:
・ジャパン・アーツぴあオンラインチケット https://japanarts.pia.jp/
・ジャパン・アーツぴあコールセンター 0570-00-1212