「自分の理想に近づいて、昔ほど生きづらさはなくなった。常に美しさを追い求めている状態がいい」と笑顔を見せるヴァニラさん
「自分の理想に近づいて、昔ほど生きづらさはなくなった。常に美しさを追い求めている状態がいい」と笑顔を見せるヴァニラさん
【写真】ヴァニラの整形前、ナチュラル顔の小中高時代

彼女は依存症ではない

 2年ほど前から輪郭や目のまわりのケアを担当する主治医のひとりであり、相談相手になってもらっているという湘南美容クリニック秋葉原院の院長、名倉俊輔医師はこう話す。

「彼女はとっても知識が豊富。やりがいがありますが、質問も鋭いから、ベテランのドクターでないと負けてしまう。怖い患者さんですね」

 フランス人形を理想とするスタンスは今も変わらず、現在の理想は人気の人形『スーパードルフィー』。考え中のVラインもルフォーも、丸顔のこの人形を新たな理想に定めてのことだ。

 行った数々のカスタムは随時SNSで報告。

 Instagramでは4万7000人超、YouTubeは7万9000人超、Twitterは1万8000人弱のフォロワーがあり、SNS上でも有数の人気を誇っている。だが、そんなヴァニラさんを整形依存症と呼ぶ人は少なくない。

「変な衝動に駆られて必要もない手術をする。それが整形依存症だと思うんです。友達にも、“手術をしていないと落ち着かない”という子がいて、あごにプロテーゼを入れたと思ったら今度は取ってみたりとか。そういう意味のない手術をしているのが依存症。私はちゃんとした目標があって、それに近づきたいだけなの」

 名倉医師もこう断言する。

「依存性というよりも、彼女は可愛くなりたいという思いがすごく強い。だから、“それをやってもそんなに可愛くないと思うよ”と言うと“あ、そうか”と。依存症といわれる人の中には“(手術を)やっていないと落ち着かない”とか“(手術後の)あざがないと嫌だ”って人もいるんですが、彼女はそうではない。僕の中では、彼女が依存症であるという感覚はないですね」

 それでも、周囲の人々にとり、これ以上のカスタムは気を揉ませるもの以外の何物でもない。母親の恵美子さんが、

「心配です。健康を損なってまできれいになってもしかたない。“もうやめたほうがいいんじゃないの!?”と言っても、聞かないですから……」

 チーフマネージャーの中井さんも、

「心配はあります。関係者全員が心配しているんじゃないですか? クリニックの先生が止めることもありますし、僕としてもすすめませんし」

 だが両名とも、ヴァニラさんには無謀な手術は決してしない賢明さがあると口をそろえる。同時にカスタムに関しては、他人の意見は決して聞かないだろうとも。

 名倉医師は、厳しい本音を伝えることもある。

「依存症だとは思いませんが、普通の人から見たら理解できないというか、やりすぎという面があるとは思っています。手術には、どんなものにもリスクがあります。医師としては、益よりリスクが上回ってしまったらストップをかけなければ。

 今のヴァニラさんなら鼻ですね。鼻は手術を重ねると皮膚が薄くなっていく。今でもだいぶ薄くなっていますから、鼻をこれ以上手術するのはリスキー。これ以上剥がしてつけるのを続けるとよくないことが起こる。やめたほうがいいとは伝えています」

日本はブスが生きにくい国

 自分の生き方を決めるのは、自らの判断と美意識のみ。だがそれも、周囲の気づかいのうえで成り立っている。ヴァニラさんはこう看破する。

「日本って、ブスが生きにくい国だと思います。みんな“顔じゃない”ってきれい事を言うけれど、きれいな人とブスとでは、生涯年収が数千万円違うと、数字ではっきりと出ているんです。

 男の人もきれいな人をチヤホヤするし、大企業の受付だって、見た目で決められてるじゃないですか! 言っていることとやっていることが違うくせに、美容整形には偏見を持ってるの!私にはそんなきれい事ばかりを言う日本の文化がわからない。だから頭おかしいと思われても、今の生き方を続けていきたい」

 容貌が、教室でのカーストから始まって、就職でも続き、年齢が成熟とは見なされにくい日本。うわべでは容姿原理主義・若さ至上主義を否定しながらも、本音の部分ではそれが大手をふってまかり通る。

 全身をカスタムで作り上げた美容整形タレント・ヴァニラは、そんな“きれい事日本”への一女性による全身での反論であり、人々に、自分をどう見るかという鋭い刃を突きつける。私たちの心をざわつかせる存在でもあるのだ─。


取材・文/千羽ひとみ(せんば・ひとみ)ドキュメントから料理、経済まで幅広い分野を手がける。これまでに7歳から105歳までさまざまな年齢と分野の人を取材。「ライターと呼ばれるものの、本当はリスナー。話を聞くのが仕事」