大事にしたいのはその場の空気感 

 早乙女さんが見いだし、こだわっている大衆演劇の魅力は「すごく当たり前で、当たり前だから大切なもの」だという。

「僕の勝手な考えですが、芸事をやる人とそれを見る人の根源が、すごくそこにはあるという気がしているんです。それは楽しみたい、楽しませたいという思いなんですね。

 健康ランドの大広間でおでんを食べながら、お酒を飲みながら見て“ヘタクソー!”ってヤジを飛ばしたり(笑)。そういうお客さんたちの自由な楽しみ方もそうだし、演じている役者も、そこでできることは全部やって、いかにそこにいる人たちを惹きつけるかにかける。

 飲んだりしゃべったりして全然見ていない人とか、寝ちゃっている人の目をどう引き寄せるか。そのために芸を学んで身につけて、踊りでもお芝居でもチャンバラでもなんでもやって、少しでも楽しんでもらいたい。それが、舞台をやる人間にとって根本的なことだと思うんです。

 自分はそういう環境で育ったから、それが自分にとっての軸になっている。そういうものはこれからも学んでいきたいし、どんどんなくなりつつあるから、自分をきっかけにもっと知ってもらいたいと思うんです」

 大衆演劇の世界は、観客にも独特の楽しみ方がある。ご贔屓(ひいき)の役者にハンチョウというかけ声をかける文化があり、迷惑をかけなければ「何をやっても自由」とか。

「何でもアリ。何をしてくださってもいいんですよ。初めて見る人はきっと、どのタイミングでやればいいものかわからないと思います。でも、正しいタイミングなんて特にないんです」

 今回は、早乙女さんが公演としては久々に女形を披露するのもお楽しみ。盛り上がること請け合いだ。客席からにぎやかな反応や「きゃー」という歓声が飛んでくると、やはり役者として気持ちがいいもの?

いやぁ、僕は照れくさいので、あんまり気持ちよさは感じていないんですけど(笑)。ヤジを飛ばしてもらうほうが面白いかも(笑)。僕がいちばん大事にしたいのは、その日のお客さんとその日の役者がその場で創りあげていく、その瞬間の空気感。

 だからお客さんにもどんどん空気を動かしてほしい。いまは演劇というと、お芝居をやる人と見る人はなかなか交わらないけど、大衆演劇はお客さんも含めた芝居小屋の空間が全部でひとつの作品みたいなところがあるんですね。どんな空気になるかは毎回違う。だから、なるべく作り込みすぎないでその場に臨みたいと思っています」