経費をかけず、料理が作れる良妻賢母にならなければという強迫観念に駆られた。その結果、万引きはどんどんエスカレートした。

「役に立ついい嫁でなければ意味がないっていうか。最初は週1回ぐらいのペースでしたが、頻度が増えました。やがてスーパーに通うたびに何か取っていました。たぶん500回ぐらいはやっていると思います」

 万引きの対象も食品だけにとどまらず、インテリアなどの装飾品にも及んだ。

 これまでに警察に逮捕され、裁判で有罪判決を受けたのは3回。最初は罰金30万円、続いて執行猶予つきの懲役刑で、服役の経験はない。40代になると過食症も合併した。

「普通の人であれば、他人の物を無断で自分の物にするっていう考えは浮かばないはず。捕まったときには怖いし、もう2度としたくないって思いました。だけど時間がたつと、また始まるんです」

 恵さんは昨年10月に逮捕され、現在は保釈中の身。近々、裁判所で判決が言い渡される。

クレプトマニアの治療・研究の第一人者である竹村院長。患者やその家族が全国から訪れる
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治療にたどり着けない常習犯も多い

 再犯を繰り返すクレプトマニア。病院で治療プログラムを続ければ、完治は可能なのだろうか。

 竹村院長が答える。

クレプトマニアの場合は“完治”という考え方はあまりなく、“回復”という言い方をします。ここで治療に取り組むようになってから、5年間以上、再犯をしていない患者が30人以上います」

 日本国内には現在、クレプトマニアを専門に治療する医療機関が限られており、治療にたどり着けない常習犯は多い。