クレプトマニアという「病気」

 法務省が発表した「令和元年版犯罪白書」によると、高齢者(65歳以上)の刑法犯検挙人員は約4万8800人で、2008年をピークに高止まり状態が続いている。罪名別では、全年齢層に比べて窃盗の割合が7割と高く、女性に限っては9割にも達し、その大半が万引きだった。総人口に占める高齢者の割合も増えているとはいえ、高齢女性による窃盗が目立っている。

 加えて、窃盗罪で服役した元受刑者が出所後5年以内に刑務所に戻ってくる再犯受刑率は、覚せい剤取締法違反の48・5%に次いで43・7%と高い。つまり1度発症し、適切な治療が施されなければ、刑務所を出たり入ったりといった悪循環から抜け出せなくなる。

 こうした受刑者の中には京子さんのように、窃盗以外の反社会的行為がない常習窃盗者が含まれており、彼女らはしばしばクレプトマニアの問題を抱えている。

 これまでに常習窃盗者を約2000人診察してきた赤城高原ホスピタルの竹村道夫院長は、クレプトマニアについてこう解説する。

「窃盗は犯罪だから、病気だと認識されにくいかもしれませんが、治療可能な精神障害です。単純に罰すればよいというものではありません。刑務所で服役させても高い確率で再犯する。それでは社会的にも損失を与えるので、きちんとした治療が必要です」

 竹村院長によると、クレプトマニアの有病率は女性が男性の2〜3倍も多い。その理由のひとつとして、女性は男性に比べて買い物に行く頻度が多いためと考えられている。

 クレプトマニアには研究の蓄積が少なく、実態の解明は遅れているが、摂食障害との合併率が高いのが特徴だ。この傾向は若年女性で顕著だが、老年女性にもみられるという。

「摂食障害の人は、自己肯定感が低く、変身願望があってダイエットにしがみつく。拒食や過食嘔吐によって生理的に慢性的な飢餓状態にあるだけでなく心理的にも、ありのままの自分を受け入れてもらいたいのに、それがかなわないという飢餓感を抱えています。このため食品やお金などを貯め込み、減るのを恐れて万引きに走るケースが少なくないのです」(竹村院長)

 クレプトマニアに陥るもうひとつの要因として竹村院長が指摘するのが、60代ぐらいの女性に訪れるライフサイクル上の危機だ。加齢による心身の衰え、家族や身近な大切な人を亡くす、子どもが家から巣立つ……。そうした変化から生じる孤独感や喪失感を背景に、発症する傾向があるという。

院内の冷蔵庫には「カメラはあなたを見ています」の張り紙が。監視カメラも設置
院内の冷蔵庫には「カメラはあなたを見ています」の張り紙が。監視カメラも設置
すべての写真を見る