義足のモデルでファッションショー

 鉄道弘済会には、花をあしらったアート感覚の義足や、しゃれた靴などが収納された衣装部屋のような一角がある。

「ファッションショーで使ったもの。このサンダルなんか、俺が買ってきたの。誰かにはいてもらおうと思って」

 2014年、義足の女性たちの躍動的な姿を撮影した写真集『切断ヴィーナス』(撮影・越智貴雄)の出版を機に、翌年、石川県中能登町で義足の女性たちによる初めてのファッションショーが開かれた。

2011年、須川さんの個展ではメイドコスプレをサプライズ演出で披露し会場を盛り上げた臼井さん(右)
2011年、須川さんの個展ではメイドコスプレをサプライズ演出で披露し会場を盛り上げた臼井さん(右)
【写真】メイドのコスプレ姿を披露した臼井さん

 モデルとして参加した、前出・大西瞳選手が話す。

「臼井さんは15年も前から、義足のモデルでファッションショーをやりたいって言ってたんです。とんでもないこと言うなあ、誰が見るの? って聞き流していたんですが、実現させちゃった(笑)。義足はカッコいい、見せるものっていう、臼井さんの考えに時代が追いついてきたんですね」

 前出・イラストレーターの須川まきこさんも、ステージに立ったひとり。

「金属の義足で登場するので、ちょっと衝撃的ですよね。私たちが緊張すると、お客さんも反応に困っちゃうので、思い切り楽しみました。それが伝わって、お客さんもすごく盛り上がってくれて」

 元気な義足女子たちは、義足は不憫で隠すものというイメージを、笑顔で吹き飛ばした。以来、全国から声がかかり、多いときは年に数回、同様のファッションショーを開催している。

 大西選手が話す。

「都会に比べて地方は義足を見慣れていないので、偏見が残っている場合もあります。地方でこそ積極的にショーをやって、義足や義足ユーザーを身近に感じてほしいですね」

 イベントで、イラストを担当し、義足の女の子を描いている須川さんも話す。

「義足の女の子のファッショナブルな絵を描けば、思春期で義足になった女の子にも喜んでもらえるかなって。私なら、誰よりもリアリティーをもって描けますから!」

 2人の言葉は物語っていた。

 10年、15年と臼井さんとともに歩むなかで、「支えてもらう人」から、「支える人」へと成長していることを─。

 臼井さんが話す。

「足を切断するってことは、どん底からのスタートです。だけど、仲間ができたり、スポーツやカルチャー、それぞれが得意分野で自分の力を発揮できるようになると、どんどんたくましくなっていく。そういう変化を見られるのが、僕の喜びであり、この仕事の醍醐味なんですね」

 齢64歳。昨年、定年を迎え、現在は嘱託として同じ条件で再雇用されたという。

「ありがたいですね。まだ発想力や体力も鈍ってる感じがしないので、とりあえず70歳くらいまでは続けていきたいと思っています」

 平日は義肢装具士としてフルで働き、休日も練習会や国内の陸上大会への付き添いと、ほとんど休みはない。

「うちの母ちゃんが怒らないかって? ひとり息子が独立して、母ちゃんも保育園でパートしながら、エレファントカシマシの追っかけしてますから(笑)。感謝してます。結婚して35年、好きなことをやらせてくれる、母ちゃんに」

義足で思い切り走る子どもたちの笑顔をうれしそうに見守る臼井さん 撮影/伊藤和幸
義足で思い切り走る子どもたちの笑顔をうれしそうに見守る臼井さん 撮影/伊藤和幸

 夫婦の時間はいつか引退してからのお楽しみ。

 今日も、臼井さんは義足を作り、患者と向き合う。

 義足で歩き出す、新しい人生を輝かせるために─。


取材・文/中山み登り(なかやまみどり) ルポライター。東京都生まれ。高齢化、子育て、働く母親の現状など現代社会が抱える問題を精力的に取材。主な著書に『自立した子に育てる』(PHP研究所)『二度目の自分探し』(光文社文庫)など。高校生の娘を育てるシングルマザー。