“たられば”を言い、間違いを追及すべき

 NHKの報道では相撲協会からの発表として「亡くなった勝武士が感染した時期は、東京都内の保健所や医療機関がひっ迫した時期と重なり、速やかな検査や治療ができなかった」としているが、いや、でも、翌6日からの検査件数はとりあえず1000件を越えていて、非常事態宣言をするからにわかに検査数増やしたんじゃ? それまで抑えていたんじゃ? と疑問を感じずにはいられない。怒りにこぶしを握る気持ちがする。もちろん1000件でも少ない。このころ、私の周りでも「保健所に電話が通じない」「電話しても検査はしてもらえない」という声をいくつか聞いた。

 いや、そもそも、熱が出てもみんな「とりあえず4日は家に待機している」としていた人がほとんどではないだろうか? 3月、4月、多くの人が風邪らしいものに罹って4日間は家にこもって寝ていたのを知っている。みんな熱と咳に苦しみつつも大事には至らなかったが、PCR検査にも至らず、すべてウヤムヤだ。

 厚生労働省が2月に発表し、コロナ受診の目安としての『熱が37.5度以上4日以上続く』といった4日間ルール。「コロナ専門家有志の会」はハッシュタグを作り、「#うちで治そう」や「#4日間はうちで」とさかんに発信していた。 

 この4日間ルールが、勝武士さんの検査と受診をさらに遅らせ、重病化に至らせたのでは? と今、多くの医師らが指摘している。

 医師の鎌田實さん(長野・諏訪中央病院名誉院長)は『日刊スポーツ』(5月14日紙面)で、「新型コロナウイルスは、重症化させないためにも初期診断と早期治療が大事になります。医療体制が追いつかず、発熱から4日たっての入院という初動の遅さが重症化につながりました」と語っている。

 思えば4月23日に亡くなった女優の岡江久美子さんも、3月29日に亡くなったコメディアンの志村けんさんも、自宅待機中に容態が悪化して亡くなっている。

 しかし、この4日間ルールに関してはすでに3月の参院予算委員会で政府の専門家会議副座長である尾身茂氏が「PCR検査のキャパシティーとのバランスを現実的に考えて」と医学的には何ら根拠がないことを言っていたのに、この4日間ルールが削除されたのはつい先日の5月6日だ。

 PCR検査のキャパシティーがないと言いつつ、実は世界で活躍する全自動で大量にPCR検査ができる検査機器は日本製(千葉県松戸市にあるベンチャー企業が共同開発)とか、さらに加藤厚労相は4月29日の参議院予算委員会で「発熱4日以上は検査要件ではない」と、誤解してたのは国民のほうと責任を私たちになすりつけたりもした。

 つい先日、5月8日時点の東京都のコロナ感染症での死亡者累計数がいきなり「19人」から「171人」になって驚いたら、さらに、そのことを衆院予算委員会で「事実か?」と尋ねられた加藤厚労相は「見てないんでわかりません」と答えていた。

 こりゃマジか? とネットのニュースで見て凍りつき、あぁ、この政府は国民のことなんて真剣に考えていないんだな、とつくづく思った。一体どうして政治家という仕事を選んだんだろう? 公僕という言葉を知っているのだろうか? と空しくなり、一体何を信じ、何を元に行動したらいいのか? 全くわからなくなった。

 そして改めて思う。

 勝武士さんはなんで亡くならなくてはならなかったんだろう?と。

 もし、4日の時点ですぐPCR検査が受けられていたら? 陽性が判明して入院し、アビガンなどで治療を受けていたら? たらればを言えばキリがない? いや。たらればを言い、間違いを追及し、もう悲劇を繰り返さないように私たちが声をあげなければ、と強く思う。もう悲しみはいらない。


和田靜香(わだ・しずか)◎音楽/スー女コラムニスト。作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦やアルバイト迷走人生などに関するエッセイも多い。主な著書に『ワガママな病人vsつかえない医者』(文春文庫)、『おでんの汁にウツを沈めて〜44歳恐る恐るコンビニ店員デビュー』(幻冬舎文庫)、『東京ロック・バー物語』『スー女のみかた』(シンコーミュージック・エンタテインメント)がある。ちなみに四股名は「和田翔龍(わだしょうりゅう)」。尊敬する“相撲の親方”である、元関脇・若翔洋さんから一文字もらった。