夫から身を守るためのアドバイス

 ところで大多数の公立中学校は、学区内の住民が通います。香苗さんは息子さんを実家近くの中学校へ通わせるため、住民票を自宅から実家へ移さざるを得ませんでした。夫は息子さんにとって戸籍上の父親なので夫が息子さんの住民票を申請すれば、役所は発行します。そのため、香苗さんと息子さんが実家に住んでいることを夫に知られるのは時間の問題です。プライドが高い夫は妻子に捨てられたという現実を受け入れるのは無理でしょう。妻子を連れ戻すため、突然、訪ねてくるかもしれません。夫が人当たりのよさを発揮し、両親を懐柔されると困ります。

 そこで筆者は「ご両親に“何をするか分からない人だから、話を聞かずに追い返してほしい”と頼んでおいたほうがいいでしょう」とアドバイスしたのです。

 さらに子の父親という立場を使い、息子さんの中学校を探し当てることが予想されます。下校中の息子さんに「お前は洗脳されているんだ」と妄言を吹き込んだり、校長や担任の教諭に「妻が勝手にやったことで私は承知していないんです」と悲劇のヒーローを演じたりされても困ります。そこで筆者は「警察と連携しながら夫に対処してください。担任の先生には前もって“夫は暴力を振るう人間です。同級生に危害を加えるかもしれないので”と話しておいたほうがいいでしょう」と伝えました。

 もちろん、今回の別居は冷却期間ではありません。夫が口先だけで謝り、「俺は生まれ変わった」と言い、「二度と同じことをしないよ」と誓ったところで今さら謝罪、改心、誓約を信じるのは無理です。香苗さんは何があろうと自宅に戻ることはなく、今後は粛々と離婚の手続を進めるつもりですが、息子さんが実家での生活に慣れるまでは離婚を待ちたいそうです。

 そして香苗さんが家庭裁判所へ離婚調停を申立てた場合、管轄の裁判所は元の自宅の最寄りです。香苗さんにとってその周辺は夫との悪しき思い出が詰まった場所。

「あっちに行くのは、まだ精神的に厳しいです」

 香苗さんはそう言いますが、かなりの覚悟が必要でしょう。香苗さん自身ももう少し、気持ちを整理するのに時間が必要です。そのため、離婚の手続に踏み切るのは十分な準備を整えてからになりそうです。

 このように香苗さんは夫に見切りをつけ、息子さんと一緒に新天地で再出発をしたのですが、もしコロナ騒動がなければ、夫のモラハラ──嫌がらせやいじめ、脅しは続いていたでしょうが、完全な別居には至らなかったかもしれません。家飲みによるDV被害は発生せず、家庭内別居……ひとつ屋根の下で顔を合わせないものの、金銭的に養ってもらうことは可能だったでしょう。

 そう考えると香苗さんはコロナウイルスに感染したわけではありませんが、コロナによって人生が狂わされた1人なのです。


露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/