ウイルスのほうが新参者なのに

 この事態について、当の“コロナ”さんにはどのような変化があったのだろうか。長野県佐久市にある「味蔵コロナ食堂」の3代目店主、須藤仁志さんに話を聞いた。

「今年の3月くらいから、SNSに面白半分に店舗の写真をさらされたり、茶化した投稿をされたりしました。営業中や夜中など、頻繁にいたずら電話がかかってきたりと、本当に困りましたね。そういうことをする前に、送信したり、電話していいものか、5秒待ってほしいと。そうしたら自分が今からやろうとしていることは意味のないバカげたことだと気づくと思うんですよ。

 とはいえ、5月に『テラスハウス』の出演者が自殺した一件があってからは、ネット関連のいたずらはパタっとやみましたね。うちの名前がおもしろいだの変だのって騒いだのは、みんな地元以外の人間ですよ。地元の人は“コロナさん、大変だねえ”なんて言いながら来てくれていたし、休業要請のときも持ち帰り料理の注文が結構あったんです

 おかげで前年比の売り上げ減は約48%で、50%以下ではなかったため、「定額給付金の支給申請はしなかった」という。

 当初、須藤さんの祖父が「甘味処コロナ」の名前で店を始め、途中で「味蔵コロナ食堂」としてから70年以上はたつ。揚げるのに10分以上はかかるという、まさに太陽コロナのように見事に丸いかき揚げや、独自の味つけがおいしいソースかつ丼。地元はもちろん、県外のツーリング客などにも「名店」として知られている。

「​(“コロナ”という名前に)『大変だね!』『縁起悪いね!』『変えないの?』なんて言われるけど、70年以上、この名前ですからね。ウイルスのほうが新参者なのに。

県から配られた「新型コロナ対策推進宣言」の貼り紙。「うちの店名を書くと、ギャグとしか思えないんですけどね」(須藤さん)
県から配られた「新型コロナ対策推進宣言」の貼り紙。「うちの店名を書くと、ギャグとしか思えないんですけどね」(須藤さん)
【写真】『コロナマニア』著者の岩田さん

“COVID-19”なんて名称、どこもまともに使ってないですよね。『武漢熱、といった特定の地域を指定するような言い方は人権侵害になるからやめましょう』なんて言ってる人たちもいるけれど、じゃあうちみたいな個人の“コロナ”はいいのかと」

 最近は、風評被害をニュースで知ったという人たちから、応援の電話や手紙が届くという。

「ありがたいんですけど、営業時間内の電話はちょっと……。うちは自分と母親と、二人っきりで回している店なんで、忙しいときに関係ない電話は実際困ってしまうんですよね。

 この前なんて、電話がかかって来たときに、かき揚げの注文で立て込んでいたので『すみません、いま昼時で忙しいので……』と言ったら『せっかく電話してやったのになんだその態度は!』って、逆ギレされてしまったんですよね。これも、電話する前に5秒待ってほしいですよね」

 今後も「もちろん店名を変えるつもりはない」という須藤さん。今年初めには、そろそろ看板や店舗をリニューアルしようと、太陽コロナを模した新たなトレードマークも考えていたという。

「ウイルスにも似ているので、なんか使いづらくなってしまって。でも、アマビエみたいに御守りとして話題になってくれるといいんだけど。ステッカーとかにして売って、コロナに負けなかった店にあやかれる、って(笑)」