一家心中の部屋で決意したこと

 困り果てる大家さん、身寄りのない故人、そして話を聞いてほしい遺族。高江洲はいつも、清掃の“その先”まで目を向けている。

 今、高江洲には「児童養護施設をつくる」という次なる夢がある。きっかけは、「心中」の現場清掃だった。

 個人経営のカレーショップが入った建物で2階が住居だった。キッチンには血痕と黒い血だまりがあり、またトイレには遺体から吹き出た体液が床一面に広がり、側には練炭が残されていた。

 夫が妻を包丁で手にかけ、その後、練炭自殺を図ったことがわかる。

 キッチンやトイレ以外には、部屋が荒らされた痕跡はない。壁には、幼い子どもが描いた絵が何枚も貼られている。

(子どもはどうなったんだ?)

 高江洲は、寝室にあった布団を思い出し、まさかと思いながら、掛け布団をめくった。

「息をのみましたよ。そこには小さな人型の染みがありました。自殺した夫は、妻だけでなく、幼い子も手にかけていたんです。一瞬で悲しみと怒りが全身に広がってブルブルと震えましたね」

 実は高江洲の妹は幼くして亡くなっていた。生まれつき身体が弱かった妹は、8歳のとき、心臓の手術に耐えられず命を落としたのだ。

 高江洲はこのとき、亡くなった子と妹の姿が重なったのだ。

「ほかの現場でも、夫が借金を残して自殺した後、亡き夫を激しく罵る妻に連れられていた小さな女の子、見積もりに訪れた現場で、遺族と不動産買い取りの相談をする私をじっと見つめていた男の子……。親を亡くした幼い子どもの姿を目にするたびに、複雑な思いにとらわれて。こういう子どもたちの未来のために何かしたいと思ったんです」

 そして、「養護施設の運営」という答えにたどり着いた。特殊清掃という、ある種「人の不幸」で得たお金の出口をずっと探していたという。引き取り手のない遺品も、買い手のつかない事故物件も、施設の運営に役立てるつもりだ。