離婚という選択肢がない佳乃さんが「不倫しない約束」を守るのか・守らないのか、夫を問い詰めて白黒つけるのは極めて危険です。もし黒(約束を守るつもりがない)の場合、佳乃さんは今後、夫の不倫を見て見ぬふりをしなければならないことを意味するからです。もちろん、詰問の有無にかかわらず、黙認以外の選択肢がないという状況は変わらないかもしれません。しかし、佳乃さんがよかれと思い、自ら黙認するのと、夫に「黙れ!」と叱られ、仕方なく黙認するのとでは雲泥の差です。

 どちらにせよ夫が女遊びをやめないとしても、です。筆者の経験からすると後先のことを考えず、感情的に突っ走るのは極めて危険です。夫が約束を守るつもりがないかどうかわからない。曖昧なままお茶を濁しておいたほうがマシかもしれません。そこで筆者は「詰問の機会は今回が最後。そのつもりで」とアドバイスしました。

 実際のところ、白黒の確率は不明。人生はギャンブルではありません。丁半博打に挑むのは危険すぎます。そんなふうに佳乃さんが次の行動をためらっているうちに半年が経過していました。

突然、夫から知らされた衝撃の事実

 そんなとき、突然の訃報が飛び込んできたのです。

 夫が言うには、あの莉子さんが亡くなったと言うのですが、佳乃さんはもちろん、筆者も耳を疑いました。彼女は何の落ち度もない佳乃さんを平気で傷つけることができるほど無神経な女性です。最後の最後まで自ら名乗り出ようとせず、佳乃さんへ詫びのひと言も入れず、この世を去ったのです。「自分さえよければ、私はどうなってもいいと思っているんじゃないでしょうか」と筆者に死を報告した佳乃さんは静かに憤ります。

「憎まれっ子、世にはばかる」ということわざがありますが、逆をいく結末に。莉子さんに一体、何があったのでしょうか? 佳乃さんが夫を問いただして白状させたところ、最初のうちは「妻よりお前のほうが好きだよ」「妻とは離婚する」「何かあっても迷惑をかけない。お前を守るから」と甘い言葉を並べ立て、「遊びはイヤ!」と敬遠する莉子さんをつなぎ止めていたそう。筆者は「それを“離婚するする詐欺”って言うんですよ。不倫する男性がよく使う手口です」と解説しました。

 彼は妻と離婚し、私と一緒になるの! 莉子さんが本気でそう思い始めた矢先、妊娠が発覚したのです。もちろん、莉子さんは子どもの存在を盾に、夫と結婚できると信じていたでしょう。しかし、夫はこのタイミングで梯子を外したのです。

「妻の父は内科クリニックの院長先生なんだ。妻とは離婚できないし、そもそも別れ話をしたこともない。悪いけれど、子どもを産んでもお金は払うつもりもないし、正直、このまま産まれると都合が悪いんだ。この先もそういう機会はあるだろ? 今回はあきらめてほしい」と。

 莉子さんはぎりぎりまで悩んだ末、泣く泣く人工中絶手術を受けたのですが、胎児を失った喪失感、人の命を救う仕事をしているのに、人の命を粗末に扱った絶望感に加え、夫に騙された虚無感に襲われたのです。何より2人が所属しているのは同じ科。夫はともかく莉子さんは合わせる顔がありません。心身とも不安定な状態で病院に足を向けるのも難しい状況だったそうです。莉子さんは「うつ病」と書かれた診断書を添付し、休職願いを提出。そして手術から直前まで休職中でした。そんな中、彼女は限界まで追い込まれ、自ら命を絶ったのです。