2018年に筆者が初めて見た『ノートルダムの鐘』 提供/若林理央
【写真】劇団四季『ライオンキング』と『キャッツ』の迫力満点な舞台ショット!

20年ぶりに、劇団四季を見ない年に

 初めての緊急事態宣言を乗り越え、'20年7月14日から、劇団四季の幕は再び開いた。しかし、コロナ禍の影響は根強く、’20年だけにとどまらず、’21年の上演作品も変更に。多くの観客が見込まれる『アナと雪の女王』も、’20年に劇団四季で初上演の予定だったが、’21年に延期された。

 私が劇団四季でいちばん好きなミュージカルは『ノートルダムの鐘』である。ディズニーでもアニメ化されているが、ミュージカルの内容は、悲劇的な結末を迎える原作に近い。決して明るい内容ではないが、メッセージ性が高く、’18年に初めて見て以来、心に残っている作品のひとつだ。'21年、東京で久々に上演される予定だった。

「それまで節約して、久々に5回くらい見に行こうかな」と楽しみにしていたのだが、『ノートルダムの鐘』は公演中止が決まった。ショックだった。

 でも、今は劇団四季の経営を安定させることが最優先なのだ。

 劇団四季はスケジュール変更に際し、謝罪文を出した。誰も悪くないのに。劇団四季で働くすべての人の、悲痛な想いが伝わってきた。

 結局、'20年はこの約20年で初めて、劇団四季を見に行かない年になった。

 '21年、劇団四季は新たな試みを始めた。オリジナル作品のオンライン配信だ。上演作のタイトルは『The Bridge ~歌の架け橋~』。これまでの劇団四季のナンバーが紡ぎ出され、数々のミュージカルの世界観に浸れる華やかなオリジナルショーだ。

 初日は1月10日で、10日と11日、動画配信サイト『U-NEXT』でのオンライン配信が決定した。すぐに購入し、開演30分前から自宅にあるホームシアターをセッティングした。

 生配信で劇団四季の舞台を観るなんて、想像もしていなかったことだ。始まった瞬間から、シンガーやダンサーの熱量が伝わってくる。これまで見てきた劇団四季の上演作が、心の中で再現される。

 生の舞台が見たい。自分の中で劇団四季の存在がどれほど大きくなっていたのかを知った。

「きっと 夜は明けるわ」

『ノートルダムの鐘』で絶望的な状況に陥ったヒロイン・エスメラルダが、未来に希望を託して歌う『いつか』の歌詞だ。『The Bridge ~歌の架け橋~』の中でも歌われていた。

 '21年2月6日、思い切って、生の舞台を見に行った。上演作品は、15歳のころに初めて見た劇団四季のミュージカル『ライオンキング』だ。

 メイクをした顔に、薬局で買ったウイルスをブロックするスプレーをかけ、紙マスクをして鼻をおさえる。1時間ごとにトイレに行き、手をこまめに洗い、持参した消毒液を手にかけた。混雑を避けるため、入場を推奨する時間がチケットに書かれていた。

 劇場周辺の大井町は、昔、仕事の経由地としてよく利用していた街だ。当時の賑わいは失われ、いくつかの店が閉まっていた。

 劇場に入ると「ああ、私はここに来たかったんだ」と実感した。

 コロナ禍の前までは恒例だった、劇場内のスタッフが声を出してアナウンスする姿はなかった。飛沫防止のためだろう。彼女たちは注意書きを持ち、劇場内を歩いた。

 場内が暗くなり、劇団四季きっての代表作が始まる。

 私はハンカチを何度も目にあてた。休憩時間に見ると、白いハンカチはファンデーションで汚れていた。マスカラをつけなくて正解だった。立ち上がり、劇場のお手洗いで再びこまめに手を洗う。

 ……どうして。

 手を洗いながら、前半の舞台を思い、心の中でそう叫んだ。どうして、ダンスも歌も演技も、クオリティが変わらないんだろう。新型コロナが日本になかったときと、今とで。

 前半には子役も2人、出演する。本番前までの間、感染対策のために、すべての役者が「いつもどおり」ではない稽古を余儀なくされたはずだ。

 ひとりでも感染者が出れば、出演者をすべて入れ替えなければならない。毎日のように感染者数が増えて、「明日いきなり中止になるかもしれない」という不安もあっただろう。