事故後、真大さんはそれまで勤めていた会社から独立し、起業。さらにユーチューバーとしての活動も始めた。

 真大さんの入浴、排尿や排便など、身の回りの介護は、妻のまみこさんや母、妹、訪問介護スタッフが交代で行っている。障がい者としての生活を投稿する『かしわせチャンネル』は、口コミで徐々に拡散され、話題に。いまでは登録者が10万人にも及ぶ人気チャンネルとなった。

「とはいえ、障がいを克服したというわけではありません。徐々にこの状態に慣れてきて、落ち込む頻度が減っているという状態ですね」

動画は日常的な介護の様子も事細かに紹介されている。ケアの仕方や工夫などは勉強になる場面も非常に多い(『かしわせチャンネル』提供)
動画は日常的な介護の様子も事細かに紹介されている。ケアの仕方や工夫などは勉強になる場面も非常に多い(『かしわせチャンネル』提供)
【写真】事故後の柏瀬さん、身体中につながれたチューブが痛々しい……

 真大さんは遠くを見た。

 事故の瞬間を真大さんは、次のように明かす。

ほんの一瞬の不注意が明暗を分けた

 2019年の年の瀬──。

「その日は深夜まで仕事をし、食事をした後、いつもどおり電動自転車で家に帰ろうとしていました」

 時刻は午前2時ごろ。街灯も少なく、人通りもほとんどない陸橋の上を自転車で走っていた。

「後ろから音がしたので、車が来ていないか振り向いたんです。結局、車は来ていなかったんですが、振り返った瞬間、タイヤが滑って転倒してしまったんです。ほんの一瞬の不注意でした」

 転倒した際、真大さんは壁にぶつかり、電柱に激しく頭部をぶつけてしまった。

「金属バットで殴られたような感覚でした。気づいたら陸橋下の道路に落ちていました。助けを呼ぼうにも声が出ず、なぜか身体も動かない」

 たまたま女性が通りがかり通報。もし彼女が通らず、発見が遅れれば……。

 朦朧とする意識の中、救急車に運ばれる際には、「明日から海外旅行だったな。行けるかな」と考えていたという。

 やがて病室で目を覚ますと、家族に囲まれていた。母と妹、そして真大さんが小学生のときに母と離婚をして、離れて暮らす父親の姿もあった。

「これはただごとじゃないんだな、と感じましたね」

夫婦関係にも変化があり、家族との時間を大切にするようになったという
夫婦関係にも変化があり、家族との時間を大切にするようになったという

 まみこさんも次のように当時を振り返る。

「そのころ、彼の帰宅が午前様になるのは、日常茶飯事(苦笑)。その日も私は、携帯をオフにして先に寝ていました。朝、携帯の電源をつけたら、義妹や義母、警察署からの着信が大量に入っていて……。私はこのタイミングで義妹から、一生歩けなくなったことを聞かされていました」

 しかし真大さんがその事実を知るのは、まだ先のこと。

事故直後は、自分の置かれた状況を把握していなかったのでテンションが高かったんです。“ケガしちゃったぜ!”みたいな(笑)」