漁師になるため“師匠”のもとへ

師匠の矢嶋四郎さんは、海の幸を料理して、人にふるまうのが大好きだったという
師匠の矢嶋四郎さんは、海の幸を料理して、人にふるまうのが大好きだったという
【写真】晶さんの師匠・矢嶋四郎さん、女性ファンが多いのも納得の男前

「私、漁師になりたい」

 1人で漁業組合の門を叩いたのは、2012年秋のこと。

「最初は私1人で漁業協同組合に行って『漁師になりたい』と相談したんですが、全く相手にされませんでした。3回通ったけど、ダメ。うちは漁師の家系ではないし、女だし、無理だと思われていたようです。それでも諦めきれなくて、師匠になってくれる人を探しました」

 真っ先に脳裏に浮かんだのは、真名瀬の浜でほかの漁師たちとは群れず、少し離れたところに船を揚げていた一匹狼の漁師・矢嶋四郎さんの顔だった。

「2007年真名瀬の海岸に遊歩道をつくる計画が持ち上がったとき、住民の反対運動が起きて……。その先頭に立っていたのが四郎さん。自分が生きてきた真名瀬の海を守るために『命がけで反対する』と言っていた四郎さんの顔が忘れられませんでした」

─弟子入りするなら、四郎さんしかない。

 晶さんは仕事の合間に足しげく真名瀬の浜に通い、四郎さんのもとで網の掃除などを手伝うようになった。

「私、漁師になりたいの。どうしたらいいかな?」

「いつでもいいよ!」


 何げなく四郎さんに相談しても、明らかにはぐらかされている。そんな状態が3か月ほど続いた。

 晶さんの修業時代を間近で見ていた四郎さんの旧友・佐久間浩さん(66)が言う。

「四郎さんはヘリーハンセンの長靴を履いて、湘南ビーチFMの帽子がトレードマーク。とにかくおしゃれで海のことにも詳しくて、面倒見がいいもんだから、女性にモテてね。お弁当を作って遊びにくるファンもいた。晶ちゃんもその1人くらいにしか、思っていなかったんじゃないかな(笑)」

 ─このままでは埒が明かない。師匠が決まらなければ、漁師になる夢を諦めなければならない。

 漁師の家系ではなく、ほかに頼めるあてもない晶さんは焦っていた。

 思いつめた晶さんは意を決して、正式に「弟子入り」を志願しようと心に決める。

 いつもはショートパンツにTシャツ姿で四郎さんの仕事を手伝っていた晶さんも、この日は自分なりに正装をした。

「ドキドキしていましたね。すごく緊張していて……。口調も結構強めだったと思う。
『本気で漁師になりたいから、修業させてくれる?』って。四郎さんの目をまっすぐ見て訴えました。そのとき、四郎さんの目つきが瞬時に変わって。あ、伝わった……って、何かを悟ってくれたような感じだった。今でもよく覚えています」


 はぐらかしてばかりいた四郎さんは、まっすぐに晶さんを見つめ、こう言った。

「よし、わかった。組合に行くから、履歴書を持ってこい」