8月12日、6人の大部屋に入院し、最初から「ネーザイルハイフロー(高流量鼻カニュラ酸素療法)」で治療が行われた。これは鼻から高濃度の酸素を注入し続ける、効果の高い治療法だ。それでも瀬川さんの血中酸素飽和度は1~2日ほど治療を続けても86%までしか戻らなかった。

 そして翌日、医師から「死ぬ可能性」の宣告を受けたのだ。

「入院から3日目、初めて担当医と対面したときです。会話のなかで『僕、良くなりますよね?』と聞いたのですが、ハッキリと『もしかしたら助からないかもしれません。死ぬかもしれないところまで悪いです』と言われたんです。しかも、けっこうサラリと。僕はそれを聞いてもすぐに理解ができずに『は……、死ぬ……?』としか言えませんでした」

「すでに家族にも連絡ずみのようでした。寝耳に水、という感じです。実際、自分の体調的に、死ぬなんて考えられませんでした。入院してから体調はそこまで辛くもなかったし、ネーザイルハイフローしているから呼吸だってできているし……、とむしろ安心していたんです」

 死にそうな厳しい状況でも、本人はその実感が全然ない。これがハッピー・ハイポキシアの症状なのかもしれない。

「しかしその後、自分の肺のレントゲン写真を見せられて愕然としました。全体が真っ白で、1/4しか肺が機能していなかったんです。自力では酸素をまったく取り込めていなかった事実に衝撃を受けました」

 この頃、瀬川さんは自分のレントゲンを手持ちのスマホで撮影し、データを記録していた。

「実は、僕の父親は愛知で呼吸器内科の医師をしていました。東京と愛知で離れていますが、現在の自分の状況を伝えるために、まめにレントゲンの写真は送っていたんです。これは後から聞いた話なのですが、僕から届いたレントゲン写真を見て、父親は『もう助からないだろう』と覚悟を決めていたそうなんです。本当に驚きました」

8月12日、入院した当日に撮った肺のレントゲン写真(写真:取材者提供/東洋経済オンライン)
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あまりの苦しさに「ネーザイルハイフロー」を外す人も

「ネーザイルハイフローはすごく苦しくて。その苦しさのあまり、同室にいる6名中3名は自分の手で外していましたね。苦しすぎて夜も寝られないし、寝られたとしても30分くらい。時間が非常に遅く感じ『まだ1日が経過していないのか』と絶望していました。食事も運ばれてきましたが、全然食べられない。でも体力をつけないと治療に差し支えが出るため、味がわからない状態で無理やり口にして……。人生で一番長い日を過ごしているような感覚でした」