4回転半に挑む理由は地元のため

「羽生選手が夢への思いを持ち続けているのは、自身だけでなく“地元のため”でもあるんです。実は今、宮城県では、スケート競技の存続が危機的状況に瀕しているんですよ」(フィギュアスケート関係者)

 羽生が通っていた『東北高等学校』のフィギュアスケート部顧問で、宮城県スケート連盟事務局長を務める佐々木遵さんが、その内情を教えてくれた。

「スケート連盟には“次の羽生くんを育ててください”と、一般の方からも毎年寄付をいただいています。でも、せっかく寄付をいただいても“場所”がないんです。

 例えば、羽生くんや荒川静香さんが育った『アイスリンク仙台』は、リンクの規格自体が小さい。通常、シニアの選手が試合をするリンクは30m×60mなんですが、『アイスリンク仙台』は26m×56mしかありません。

 羽生くんが加速をしてジャンプをするポジションが、ちょうどフェンスのところになってしまうんです。ジュニアまではなんとかなりますが、それ以上になると難しい」

 シニアにも対応できるリンクは、たったひとつだけ。

「仙台の郊外にある『ベルサンピアみやぎ泉』というスポーツ競技場の複合施設にあるスケートリンクのみです。でも、そこも冬季限定ですし、この先どうなるか……。

 スケートリンクはフロンガスで氷をつくっていますが、'20年で供給が止まってしまったので、アンモニアに替えようとしており、ほとんどのリンクは“続けるのかやめるのか”という選択になっているんです。『ベルサンピアみやぎ泉』のスケートリンクもこの選択を迫られています」(佐々木さん、以下同)

 こういった状況から、選手たちの練習環境を守ろうと動いている。

「宮城県の担当者に“なんとかスケートリンクをつくってもらえないか”という陳情をしているのですが、震災やコロナの影響で、県にはお金がないようで。この25年間、お願いし続けているのですが……。

 かといって、民間でやるにも、金銭的に大変なので、なかなか手を出そうとしてくれない。

 羽生くんは一生懸命、結果を出して、寄付もしてくれています。でも、スケートリンクがないので、なかなか後進が育たず、選手の人数も少ないのです。だから、羽生くんが“宮城県にリンクをつくってください”とハッキリ言ってくれないかなぁ、なんて思うこともあります