38年前、綿引さんは雑誌で“浮気をしたことがある”と告白している。

「アラ、そんな記事もあったんですか。私には見せないようにしていたんでしょうね。でも隠しごとはすぐわかった。あの人のことは何でもわかっちゃうのよ(笑)」

 すべて、お見通しだったのだ。軽やかに笑う樫山の表情は、『おはなはん』のころと変わっていない。

「客席に彼がいるような気がして」

 綿引さんは'85年に民藝を退団し、ドラマや映画で主に悪役として活躍。'91年に始まったドラマ『天までとどけ』(TBS系)では岡江久美子さんとの夫婦役でイメージを一新。“国民の父親”として人気になった。

「家族役の方々とは、年に1度みんなで会えるのを楽しみにしていましてね。綿引が声をかけて集まって飲んだり食べたりしていたんですよ」

『天までとどけ』の“丸山家”は、'99年に番組が終わってからも“家族関係”を続けていた。しかし'20年4月、“お母さん”の岡江さんが新型コロナによる肺炎で死去してしまう。

「岡江さんが亡くなったとき、私は2階にいて、綿引は1階のリビングでテレビを見ていて、“ママが死んじゃったよ!”って大声で叫んだのが聞こえてきました。すごく衝撃を受けたみたいでした」

綿引勝彦さんが出演した『天までとどけ』は8年間で8シリーズが放送され、最高視聴率19%の大ヒット昼ドラだった
綿引勝彦さんが出演した『天までとどけ』は8年間で8シリーズが放送され、最高視聴率19%の大ヒット昼ドラだった
【写真】『天までとどけ』の同窓会に出席する故・綿引勝彦さん

 その後、綿引さんは静養のために軽井沢へ。樫山は舞台の仕事が入っていたので、離れて暮らすことに。

「公演が終わり、彼の11月23日の誕生日は、軽井沢で過ごしました。亡くなる1か月前ですね。その直前には、福島県いわき市にある両親の墓参りに行っているんです。後に綿引もそこに入ることになったのですね。

 まだ亡くなったという実感はありません。先日出演した芝居でも、客席のどこかに彼がいるような気がして。毎回、初日を見て、私にダメ出しをしてくれていたんです

 樫山は80歳になった今も精力的に活動中。ドラマでは『群青領域』(NHK)に出演。毎年、劇団民藝の新作舞台に出演し、昨年末の舞台『集金旅行』では主演を務めたばかり。今年も朗読や舞台の出演が決まっている。

「彼は、私の芝居を認めてくれて、そのほかのことは我慢してくれていたんだと思います。だから、あと5年くらいは私も頑張れるように身体を鍛えて、寂しくても元気で。劇団があるし仲間もいるから、少しずつ、無理せずにやっていきます」

 綿引さんは、天国から樫山の演技を見て優しく“ダメ出し”をしているだろうか。