心の底から「この歌を歌いたい」

「2月1日に新曲『群青の弦』をリリースします」

 '22年の幕開けは、氷川節が冴えわたる演歌から。

「日本のお正月といえばこの曲という『春の海』。ご存じですよね? テン、テレレレレレレ♪ っていう。箏と尺八の。この『春の海』を作曲した宮城道雄さんのことを歌った作品です」

 宮城道雄(1894〜1956)は生後200日くらいのときに眼病を患い、4歳のころに母と離別。祖母に育てられる中、8歳のころには完全に失明。しかし、それが転機となって箏曲師・作曲家の道を歩み、大きな功績を残した人物だ。

「そんなハンディがあるにもかかわらず、あれだけの名曲を作られて。目が見えないからこそ、いろんなことを想像し、耳で感じながら『春の海』を書かれたそうです」

 心の慰めは音楽であり、季節の移り変わりを知るすべは春夏秋冬の音。そんな盲目の箏曲師を歌い上げる。

「持って生まれた苦難をすごく感じるというか。どんなハンディがあっても、どんなつらいことがあっても生き抜いて、何かを創り出していく。そんな生き方におこがましいんですけど、自分を重ね合わせられる気がして。心の底から、この歌を歌いたい。そう思いました」

演歌とポップスどっちもいいと伝えたい

 実はこの楽曲、5年前にすでに完成していたが、ずっと温めていたのだという。

「5年前の自分では、この曲は表現できなかったと思うんです。

 30代の自分は“まだまだ、とにかく頑張らないといけない”という意識で走り続けていたような気がします。いわば、イケイケドンドンだった。

 でも40代を迎え、自分に無理なく歌う流れを作り出せてきて。今の自分であれば『群青の弦』を説得力をもって届けられる。今、歌う意味をすごく感じました」

 並々ならぬ思い入れと意気込みが伝わってくる。

「今回の『群青の弦』は袴で歌おうと思っています。長い髪は結わえて、凛とした感じに。やっぱり歌い手は役者さんと一緒で、曲によってお芝居して、歌の主人公になりきるものだと思っているから」

 昨年リリースした『南風』のやさしさ、『Happy!』のキャッチーさ、ポップスアルバム『You are you』のアート性。それらとはまた異なる方向性でのアプローチ。

「『群青の弦』、ぜひ多くの方に聴いてもらって“演歌ってすごく染みるね”と思ってもらえたら。昨年とは、また全然違った世界観の音楽ですけど、“どっちもいい”っていうことを伝えていけたら。何より、常に新たないろんなものに変化しながら、音楽をやっていきたいと思っています」