少数意見にも耳を傾ける全校集会

 学年に関係なく仲がいい友達ができる。休み時間に中学生にピッタリとくっつく低学年の小学生に「仲よしだね」と声をかけると、「寮で一緒やねん!」とうれしそうだ。

廊下にはたくさんの椅子が(撮影/渡邉智裕)
廊下にはたくさんの椅子が(撮影/渡邉智裕)
【写真】学園内で主体的に動く子どもたちの姿、子どもに寄り添う大人

 家が遠い子どもたちは、小学1年生から寮に入り、週末は自宅に帰って家族と過ごす。入学前に2泊3日の体験入学をして、子ども自身が「ぜひ入りたい」と思うことが入学の条件だが、それでもホームシックになる子がいる。そんなときは、年上の子どもたちがそっと寄り添う。

寮に入っている子のほうが人間関係の発達は早いと思います。24時間一緒にいれば、トラブルやもめごともたくさん起きて、その都度みんなで話し合う。失敗を繰り返しながら、人との距離の取り方を自然に学ぶんです

 卒業生も保護者も、教員である大人たちからも出てきた言葉がある。

子どもの村は大きな家族みたい

 保護者のAさんは、子どもの雰囲気が変わったと話す。

息子は保育園時代、帰宅後、怒りに近い不満を抱えていることが多かった。子どもの村に入学してから嘘のようになくなって毎日ご機嫌に。大人が子どもを信頼し尊重してくれているからだと思います。大人と子どもの関係ってこれだよなって感じます。とにかくみんな笑顔!

 この学校に「校則」はないが、子どもたちが話し合って決めた「約束」がいくつかある。それはいつでも話し合って見直すことができる。

 週に一度、小・中学生、大人たち全員が参加するミーティングという名の全校集会。議題は「ミーティング・ボックス」に入れて提案でき、議長はミーティング委員会の子どもが交代で務める。運動会や遠足などの行事や、社会問題、人間関係、いじめもみんなの問題になる。

毎週必ず行う全校集会も子どもたち主体で進める。「学校」の約束事もみんなで根気強く話し合い決める(撮影/渡邉智裕)
毎週必ず行う全校集会も子どもたち主体で進める。「学校」の約束事もみんなで根気強く話し合い決める(撮影/渡邉智裕)

「〇〇くんが、僕にいつも嫌なことを言ってくるのでやめてほしい」

 誰かがそんな声を上げたときは、現場を見た子や、状況を知る大人がみんなに話し、誰がいいか悪いかではなく、もう一度起こらないようにするにはどうすればいいかをみんなで考える。話し合いが進まないときや、誰かがみんなに責められてしまうときは、大人が小さく手を挙げる。

「〇〇くんは、言いたいことがいっぱいあるけど、気をつけるって言っているね。それについてはどう思う?」

 ミーティングの途中で全体に挙手で意見を問うこともあるが、小さい子も大きい子も、少数意見にしっかり耳を傾ける。その場で解決するのではなく、1週間、2週間と時間をかけてみんなで見守り、また話し合う。堀さんはこの時間がとても重要だと考える。

大人も沈黙はしません。ただし、権威は振りかざさない。子どもと対等の立場で参加し、脱線したときは、その場を整理します。

 ミーティングは教育活動として重要で、アイデアや思いを披露し合うことで、自分以外の人がそれぞれ違って存在することを身体で感じることができる。

 それは、自分自身を強く意識することにもなるんです。大人は、煮詰まってきたときにふっと笑わせて場を和ませることも大事かな

 学校では意見をあまり言わない子も家では盛んに話し合う。保護者の藤原さんは、子どもたちの変化に驚かされた。

猫の世話でもめたとき、きょうだいで感情的にならずにやりとりしていました。今、何が問題? こういうルールにするのはどうかな?って。

 夫婦ゲンカも横で聞いていて、パパは本当はこんな気持ちだったんじゃないかな、と後で言ってくれることがあります。驚きますよね。膨大なミーティングの体験が積み重なっているんだなと思います

 そんな子どもたちから保護者が学ぶことも多い。

大人になると、組織で何か問題があっても、政治家や上司のせいにして、どうせ変えられないと諦めてしまう人が多い。

 だけど、子どもの村では、学校は自分たちで話し合ってつくることが当たり前になる。きっと、社会も自分たちでつくっていこうという姿勢につながるんだと思います」(保護者・木村さん)