例えば、2020年度の南アルプス子どもの村中学校の卒業生を見てみると、外部の私立高校4割、公立高校2割、きのくに高等専修学校3割、通信制高校1割と、全員が高校に進学。子どもたちは自分で高校について調べ、進路を決める。大人は、相談があれば話を聞き、情報提供、情報収集を手伝うだけだ。

 推薦で進学する場合もあるが、作文や面接は特別な対策をしなくても、素直に答えているだけで十分に関心を持たれることが多い。

 わからないことは「それはわかりません」と正直に答える子もいれば、「なんか、話したらめっちゃ笑ってくれた」「ほかの人の3倍くらい長かった」と言って楽しそうに帰ってくる子もいる。

 卒業生の禰津匡人さん(29)は大人になった今、当時をこう振り返る。

出入り自由な職員室には子どもたちが集まり、にぎやか。卒業生の禰津匡人さん(左)は和歌山校の教員に(撮影/渡邉智裕)
出入り自由な職員室には子どもたちが集まり、にぎやか。卒業生の禰津匡人さん(左)は和歌山校の教員に(撮影/渡邉智裕)
【写真】学園内で主体的に動く子どもたちの姿、子どもに寄り添う大人

子どもの村では全部子どもが決めて自分たちでやっていました。だから、高校や大学、社会に出てもなんでもできる自信があった。相手が教授でも偉い人でも臆せずに質問したり意見したり、対等に話せるんだと思います

 選んだ進学先で学びを深め、好きな分野を突き詰めて活躍し、高校卒業時には代表で答辞を読む子も多いと堀さんは言う。

高校で何か困っていないかと尋ねると、ほとんどの子が“高校のほうが子どもの村よりずっとラクだ”と言います。理由を聞くと、“だって、先生の話聞いてるだけでいいもん”と言う。子どもの村では何を学ぶかも自分で決めますし、話を聞いているだけじゃ何も進みませんからね

 昨年の春、中学を卒業し、山梨の私立高校に進んだある卒業生は、小学校4年生のとき、割り算でつまずいた。保護者のFさんは“他人と比較しない校風”に救われたと話す。

「本人が割り算がわからないと言って学校で大人に相談したら、ひとケタの掛け算まで戻っておさらいできたようです。九九を覚えていないから割り算が難しかったみたい。でも、誰かと比べて評価されることが全くないので、できないことがあっても卑屈にならないし、わからないと言える。それは今も強みだと思います」

 その子は、現在通う高校で上位の成績を収め、演劇部に所属。学校以外でもアプリ開発をするオンラインイベントに参加するなど、自分で熱中できることを見つけている。

卒業生には本当にいろんな子がいます」と堀さんは誇らしげだ。

「医者になった子もいるし、子どものころ食が細くて心配していたら無農薬野菜の店を出した子もいる。数学で素晴らしいひらめきを見せて、数学者になるかと思ったら現代バレエのダンサーになった子も。小学校でたんぽぽの研究に夢中だった子が環境関係の大学に進学し、卒業後にはなぜか花火を作る会社を自分で立ち上げた子もいます」

 学校を始めた当初は、“このやり方でもいけるんじゃないか”くらいの気持ちだったが、卒業した子どもたちの姿を見るたび、自信は増した。

このほうが絶対にいいという確信に変わりました。私たちが目指すのは、いい成績を取ることでも受験に成功することでもない。どんな状況でも、幸せに生きられる人になってほしいのです