とはいえ、ジャンプをするのはケガを悪化させそうなもの。

本来であればとにかく安静にするのがいちばんですが、ケガが治りきるまで動かないでいると、今度は関節が固まってしまう場合があります。そうすると競技への影響も考えられるので、関節が固まらないように適度に足を使いつつ治療を進めるという方法もあるでしょう。医師やトレーナーなどの判断を仰ぎながら決めたことだと思います」(佐々木院長、以下同)

 しかし、そのために羽生が“許容量以上”の痛み止めを飲んだと発言したことも、物議を醸している。

「薬は、許容量を超えると副作用が大きくなります。一般的によくあるロキソニンやボルタレンなどの痛み止めの主な副作用には、胃腸障害があります。もちろん胃薬も一緒に飲んでいるとは思いますが、普通の量ではとても痛みを抑えられず、胃よりも足の痛みを鎮めることを優先したのでしょう。いずれにしても、ずっと身体を酷使しているから、傷が治りきる前に次の負担がかかっており、常に火に油を注ぐような状態で、完全回復はしていなかったのではないでしょうか

自分の挑戦する姿が励みになれば

会見を終えて、去り際には深々とお辞儀をした羽生結弦(JMPA代表撮影・2022年北京五輪)
会見を終えて、去り際には深々とお辞儀をした羽生結弦(JMPA代表撮影・2022年北京五輪)
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 それが、ケガを繰り返す原因にもなっている。

「靱帯は一度傷ついてしまうと、どうしてもゆるみが出たり、柔軟性が失われたりして“手負い”の状態になります。そうなると、本来はしなやかで衝撃に耐えうるはずの靱帯が、再び捻挫を起こしやすくなってしまうのです。

 そして捻挫を繰り返すと、そのたびに靱帯の強度が落ちる場合が多く、いくら固定をしてもケガをする前の状態には戻りません。こういった状態でスケートをするのは、本当はよくはないと思います」

 それならば、エキシビションへの欠場を決めたうえで、試合後すぐに帰国し、治療に専念することもできたはず。

 羽生はなぜそれをしなかったのか。

 2月14日の会見後に行われたNHKによるインタビューで、羽生はこう話している。

「身体を痛めつけてでもやりたい表現であったり、見てもらいたい演技があるので、今はとにかくそこに全身全霊を込めたいなと思っています」

 羽生が4回転半を目指し続けた理由だと話した“9歳の羽生”を育てた都築章一郎コーチは、コロナ禍で暗い世界を憂えての発言ではないかと推察する。

東日本大震災で被災し、多くのみなさんから応援や励ましをいただいた経験から、今コロナで悩んでいる世界の方々に“自分のスケートがみなさんの励みになれば”という思いが強くあるのでしょう。だからこそ、どうしても滑りたいという強い意志を持っているのだと思います」