「誰でもリーダーになれる」

 '17年、加藤さんは少年更生の経験を活かし、人財育成研修とチームビルディング支援のエキスパートカンパニー『マーヴェラスラボ』を設立。JRやコカ・コーラといった大手を含む500社以上の企業と、学校の人材育成支援を行ってきた。

 同社の事業部長で、管理者層の研修を手がける日高心陽さん(34)が語る。

「50代の経営幹部の方たちが相手だと、最初は腕組みして、どうせいつもの研修なんでしょって感じなんですよ。でも加藤が自分のことをさらけ出して、おひとりおひとりに“人は変われる”ということをお伝えすると、ふんぞり返っていた方たちも、次第にふんふんと聞いてくださるようになるんです」

 加藤さんは「人はいつからでもどこからでも変われる」と力強く唱えている。 

「僕みたいに育った環境も悪くて、特別に何かを持っているわけでもないクズが変われたわけですから、誰でも変われます。みなさんそういう環境にいないから、変われるということがわからないんですね」

安全な場所から綺麗事を言うのが大嫌いなのだとか。「世の中の悲しみを減らして、喜びを増やす」ことがビジョン。自らの壮絶な体験から「人はいつでも変われる!」と提唱する 撮影/伊藤和幸
安全な場所から綺麗事を言うのが大嫌いなのだとか。「世の中の悲しみを減らして、喜びを増やす」ことがビジョン。自らの壮絶な体験から「人はいつでも変われる!」と提唱する 撮影/伊藤和幸
【写真】暴走族時代の加藤秀視さん

 年齢のせいにしたり、絶対無理だと思っている人が多いが、その固定観念を壊すところから始めるという。

「僕の使命は努力するすべての人に勇気を与えることだと思っています。人の可能性を最大限に引き上げたいんですよ。一方で、社会の裏側で起きていることにも目を背けてはいけないので、その可能性を奪うような隠蔽や誹謗中傷といった障害物をどかす活動もしています。その両輪で動いている感じですかね」

 前出の日高さんは、「困っている人を見ると、じっとしていられない人」だと明かす。

「自分が幼少期に救われたかったという思いがあるからでしょうかね。仕事でどんなに急いでいても、交通事故があったりすると、すぐ手を差し伸べます。そんなとき、事故現場で動画を撮っている人を見つけると、即行で注意しにいきますね。見た目が怖いんで、みんなすぐ逃げていっちゃいますけどね(笑)」

 誰にでも自分に与えられた使命があり、それを見つけて追求することが生きる意味だと加藤さんは言う。“一生付き合わなければならない自分”を信じて愛することができたら、必ずその使命に気づけるはずだと。

「そうしたら人はいつでも変われます。今はフォロワー量産社会のようで、それはおかしいんじゃないかって思っているんです。みんな顔も性格も違って、それぞれに役割も違うはずなのに、なぜか人と同じことをやりたがるでしょう?

 誰かを支持するフォロワーになるんじゃなくて、みんながおのおのの使命のリーダーになれるはずなんですよ。自分の人生は自分のものですからね」

 こわもての元武闘派のカリスマは、やり直しのきく人生を体現している人。人の弱さも痛みも知っているから、やさしさを極めることができる。困った人をほっとけないリーダーが育てたリーダーたちが、次のリーダーを育てていく。

〈取材・文/森きわこ〉

もり・きわこ ●ライター。東京都出身。人物取材、ドキュメンタリーを中心に各種メディアで執筆。13年間の専業主婦生活の後、コンサルティング会社などで働く。社会人2人の母。好きな言葉は、「やり直しのきく人生」。