さらに深刻なのはポルノ作品に出演契約した18〜21歳の少年だ。安い出演料もしくは『カメラテスト』と称して無料で出演させられるケース。女優との性行為がある作品に出演させ、その性行為を報酬の対価としてわずか数千円で出演させられるケースも。

「一部のメーカーはAV業界の団体にも入っておらず、契約書も整備されていない。その場合、販売から5年たったアダルトビデオの作品について、出演した俳優から要請があれば販売や配信の使用を停止にできる、5年ルールも適用されない」

映像を「なかったこと」にするのは大変

 未成年者にとっては作品の販売停止、回収をする手段は未成年者取消権しかなかったのだが……。

「今は高校生を含む18歳が、取り消しできないというリスクを知らずに契約できてしまう。しかし、現状では解決策がないんです……」

 18歳、19歳に未成年者取消権が適用されなくなった今、世に出たAVの販売停止や回収は可能なのか? 前出の高橋さんは次のように語る。

「民法その他の法律を用いて契約の取り消しをすることなどが考えられます。しかし、現実には救済が難しいケースも多くあります」

 強要され出演させられた18歳や19歳が契約を取り消したいと考えた場合、契約を結ぶ過程でどんな違法な脅迫や脅しなどがあったのかを立証しなくてはならない。

「脅されていたとしても、口頭でのやりとりでは証拠も残らないので、違法性を立証するのは大変難しい」(高橋さん、以下同)

 自分の見られたくない性的な画像が海外のサイトまで拡散されてしまうと、該当するサイトを特定して、削除するのは極めて困難になっていく。自分の性的な画像がインターネット上に半永久的に残り、『デジタルタトゥー』となってしまうこともある。

「悪質なスカウトに遭ったり、強引な手口でプロダクションと契約をしても、撮影をしていない段階なら引き返せる可能性があります。相談は早ければ早いほうがいいですし、トラブルを未然に防ぐための啓発も重要です。一度世に出た画像や動画を再び『なかったことにする』のは、どれだけ大変なのか、若い世代に伝えるのは、大人の責任でもあります」

 ぱっぷす担当者も訴える。

「問題なのはデジタルタトゥーになることをわかっていて契約を結ばせる業者です。彼女たちの『人生』に向き合っているのなら、新成人の未成年者取消権の存続を求めるべきだと思いませんか? なぜなら取り消すことができないとその後の生活に大きく影響があるからです。そこまで想像をせずに撮影する無責任さは社会的に批判していかないといけない」

 前述のとおり「契約」は、私たちの生活のありとあらゆる場面に関わってくる。

「契約をする、サインをする際、内容がわからなければ質問をしたり、説明を求めることは恥ずかしいことではありません」(高橋さん)

弁護士 高橋麻理さん 弁護士法人Authense法律事務所所属。元検察官。殺人事件、詐欺事件のほか性犯罪事件の主任検事も務める。退官後、弁護士に。刑事事件、離婚等家事事件などを担当。
特定非営利活動法人ぱっぷす 2009年設立。リベンジポルノや意に反したグラビアやヌード撮影によるデジタル性暴力、アダルト産業や性産業に関わる被害者からの相談や各種支援を行う。