自分の筆はまだまだ弱い

――金子さんは、1995年に『ときわ菜園の冬』でフジテレビヤングシナリオ大賞を受賞し、脚本家デビューのきっかけを掴みます。同作の脚本を再読していると、『TANG タング』との面白い類似がありました。登場人物である園とベンが34歳で同い年だったんです(笑)。

金子:それは気づきませんでした。

――『ときわ菜園の冬』は、ロードムービーの代表作であるヴィム・ヴェンダース監督の『パリ、テキサス』にインスピレーションを得ています。あるいは2007年に扶桑社から出版された小説『ひとこと、好きと言いたくて』も世界を巡る恋愛小説です。物理的な旅にしろ、心の旅路にしろ、旅の題材が多いように思います。

金子:小説デビュー作となった『ガールズ・ガーデン』(2004年)を20代女性向けファッション雑誌『LUCi』で連載していた2001年当時、28~30歳の2年間で連ドラを4本担当しました。やればやるほど力のなさを感じましたし、自分の筆はまだまだ弱いと実感していました。

 そこで月刊誌で小説連載を持てば、起承転結の構成力が鍛えられると思い、自分から出版社にお声かけをしました。毎月、起承転結を意識しながら小説連載を続け、連ドラの脚本と格闘していたところへ、『Stand UP!!』の仕事がくるんです。ストーリーテラーとしての修行の果てに巡ってきたのが、二宮さんの初主演ドラマだったわけです。

――金子さんの脚本家人生が物語のように巡りめぐり、二宮さんに繋がるわけですね。

金子:この映画で二宮さんに再会できたことを考えると、ここまで脚本家を続けてきたご褒美だなと思ったりもします。長い間、実力と実績を積み上げてきた二宮さんのお芝居に支えられ、三木監督のまなざしのもと、温度が宿る作品になったと思います。観終わったあとにまた、健とタングに会いたくなるような温かさがある気がします。

 観て下さった方にも、健とタングが心の中に灯るような感覚を共有していただけたらと思います。ぜひ、劇場のスクリーンであのふたりと出会い、彼らと共有した体験を持ち帰っていただけたらと願っています。

<取材・文/加賀谷健 撮影/山田耕司>