遺品を盗んで、遺族に気づかれないものなのか

「遺族は特養ホームに入っている親族にほぼ無関心。面会に来る家族は、ほとんどいません。コロナ禍になってからはなおさらです。持ち物がなくなっても、まず気づかない。実際、問題になったことは一度もありませんでした」

 問題は窃盗だけにとどまらなかった。利用者に対するいじめ、虐待だ。

「私はペースト状のものしか食べられない利用者に、なぜか無理やり食べ物を飲み込ませる役をやらされました。“スプーンを喉の奥まで入れれば飲み込むから”と教えられて。当然、そんなことをされたら当事者は泣いて嫌がる。ものすごくきついです」

 さらに状態が悪くなるとペーストを作る。だが……。

「それも面倒くさいから、フルーツもお肉もお米も全部まとめて流動食にするんです。そんなもの、まずくて誰も食べられない。これもまたスプーンをねじ込んでいました。ボロボロ泣きながら流動食を流し込まれているみなさんを見て、自分は絶対に入りたくないし、死んだほうがまし。絶対に自分の親も入れたくない、と思いましたね」

押しても誰もこないナースコール。自分で動けなければもうトイレにさえ行けない
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 ナースコールが鳴っても無視する。トイレに行きたいと言っても、すぐに連れていかない。そんな小さな虐待はいくつもあった。

「“利用者に対する虐待じゃないか”と訴えたことがあったのですが、すぐにいじめにあいました。1週間くらい全員から無視されました」

 今もそこに勤務するAさんだが、そんな状況もそろそろ限界を迎えようとしている。

「この話をしたことがバレたら、もう施設を辞めようと思っています。自分も虐待に加担しているストレスもひどいし、周りに話が通じる職員もいない。つらいです」

 また1人、心あるスタッフが離職してしまいそうだ。