しかし、平成4年、運命とも思われる、鴨場のプロポーズ。思い切った陛下の行動が雅子さまの心を動かした。「外交という分野では、外交官として仕事をするのも、皇族として仕事をするのも国を思う気持ちに変わりはない」と陛下は雅子さんに問いかけられた。

 大変不敬な物言いになるが、私は心の中で「よく言った!決めセリフだ」と確信をもった。しかしこのお言葉が、後に雅子さまを追い込んでいくことになるとは、誰も予想はしていなかった。若きお二人が心に描く「皇室外交」と宮内庁の思いは、大きくその方向が異なっていたからである。

雅子さま発案の一品

 ご結婚後、新婚の両陛下からソフトボールのお誘いがあった。雅子さまは学生時代、ソフトボール部に所属されていたことを知ったが、試合は男性陣だけで行うこととなり、ほっとしたのを覚えている。一方の雅子さまは応援団に回られ、女性陣と楽しくお話しをされていた。

 よく「雅子さまはどのようなお方か」と問われることが多いが、一言でいえば、周りの環境を瞬時に読み取り、その場を和ませる潜在的な能力をお持ちの素晴らしい女性だとお答えしている。試合後、赤坂御用地内にある、奉仕団休憩場において、懇親会が催された。スポーツ後のくつろいだ会であったが、随所に雅子さまの気配りがうかがえた。

ピアノを弾く浩宮さま(現・天皇陛下)の横に立つ学習院中等科時代の乃万さん
ピアノを弾く浩宮さま(現・天皇陛下)の横に立つ学習院中等科時代の乃万さん
【写真多数】雅子さま、皇室入りから30年をファッションで振り返る!

 食卓には普段あまり目にすることがないものが供されていた。はじめは揚げ物だろうかと思って手に取ってみて驚いた。なんと「沢庵」であった。沢庵一つひとつがアルミホイルに包まれており、楊子が添えられてあった。乾燥しないようにするため、お漬物ではないように見せるための、細やかな工夫が施された一品であった。これが雅子さまのご発案だったことを知り、その気配りの素晴らしさに感動したものである。

 そして、参加した者一人一人に優しくお言葉を交わされ、しかも非常に丁寧に、かつ意欲的に会場内を満遍なく回られて、「雅子です。よろしくお願いいたします」という謙虚な姿勢に、初々しさと親しみやすいご様子を拝見した。

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 ご結婚後間もなくの出来事だった。毎年陛下の気の置けない学友たちが新年のご挨拶のため参殿を許され、両陛下にご挨拶を申し上げるのだが、中には、赤ちゃんを連れてくる者もいた。その赤ちゃん達のために、菊の御紋章があしらわれたベビーコットがさりげなく置かれていた。これも雅子さまのさり気ないお心遣いであった

 愛子内親王殿下がご誕生された時のご会見を拝見した。記者から感想を聞かれた雅子さまは、声を詰まらせ、ポロリと涙を流された。その後ろから優しく手を背に回された陛下は、とても幸せそうでいらした。