誤嚥が起こる原因と“不顕性の誤嚥”

「飲み込む(嚥下えんげ)という行為を細かく分析すると、5つの段階に分かれます。

 食べ物を見て認識する【認知期】、食べ物を実際に口に入れ、噛みつぶして食塊をつくる【準備期】、口腔から咽頭へ食塊を送る【口腔期】、食塊を気管に入らないように食道に送る【咽頭期】、そして、食塊を食道から胃に送る【食道期】

 いずれかの段階で何らかの障害が起こってしまうと、それが誤嚥のきっかけとなりえます」

 誤嚥の要因はさまざまで、老化により認知機能が落ちると、最初の【認知期】の段階で障害が発生することも。

「目の前にある食べ物の大きさや量、形状や硬さなどをうまく捉えられなくなると、食べ切れない量を一気に頬張ってしまったり、思ったより硬くて噛めず、慌てて詰まらせてしまったりということが起こって誤嚥につながります。

 また、噛む力や舌で食べ物を押しつぶす力が低下すると【準備期】も誤嚥の要因になりえますし、口腔内や喉の筋力が落ちて飲み込む力自体が低下していると、その後のいずれの段階でも誤嚥してしまうリスクが高まりますね」

 老化だけでなく、脳血管障害などが嚥下機能の衰えにつながることもある。高橋幸宏さんも、2020年夏に判明した脳腫瘍の摘出手術後、復帰のためにリハビリを続けている最中に、誤嚥性肺炎を併発したと発表されている。

「正常に食べ物を飲み込んだり、誤嚥した際にむせて異物を排出したりできるように神経に働きかける“サブスタンスP”という物質があります。

 パーキンソン病や脳血管障害などによってこの物質の分泌が低下すると、嚥下機能が落ちてしまい、結果として誤嚥性肺炎につながってしまうことも多いです。高齢者だけでなく、過去に脳血管障害を患ったことがある方も、誤嚥性肺炎に注意が必要です」

 寝ている間に少量の唾液や胃液などが気管に入って起こる“不顕性の誤嚥”もある。

不顕性の誤嚥の場合、本来なら異物が気道内に入ったときに起こるせき込みや、むせるなどの反射が見られないこともあります。本人も自覚がないため、気づかないうちに誤嚥性肺炎を繰り返し発症する原因になりえます。

 不顕性の誤嚥は誰にでも起こりますが、若年者の場合は基本的な免疫機能も高く、大事には至らないことが多いです。一方、体力や免疫機能が弱っている高齢者や基礎疾患がある方にとっては、命に関わるケースも少なくありません」

 さまざまな要因によって起こる誤嚥性肺炎。予防のためには何をすればいいのだろうか。