今の親の姿に未来の自分を重ね

 両親同時介護にとまどいながらも、カータンさんはユニークな対応で切り抜けていく。

「父の“せん妄ワールド”は、奇想天外で楽しくて。あるときは、『お父さんに弁当をくれる女性がいるんだ』と。

 私が『どんな弁当箱?中身は?』と興味津々に聞くと、アルマイトの弁当箱で、中身はお赤飯だと。いつの時代にタイムスリップしてるんだか(笑)」

 一方、イクコさんは家にある菓子を食べつくしてしまうため、隠しておくが……。 

「なぜか野生の勘で探し出すんですよ(笑)。バレるたびに『どうだ、ここならわかるまい!』とこっちも意地になって隠し場所を変えるんです」

 普通ならキツイ介護中、カータンさんの心の余裕はどこから?

「母の横に、将来の年老いた自分が見え出したんです。例えば、しっかりものの長女は、おばあちゃんの認知症が進まないようにと、しりとりをさせたり厳しいんですが、もうそこには、答えられずにオロオロする年老いた私がいて(笑)。

 いずれは私も老いていく。親にも『もっとやさしくしようよ~』って思っちゃうんです」

元気だった親の衰えに家族はいら立ったり、戸惑いがち。しかし、カータンさん自身が母と同世代になったときを想像すると、当たり前のことだと思える(イラスト/カータン)
元気だった親の衰えに家族はいら立ったり、戸惑いがち。しかし、カータンさん自身が母と同世代になったときを想像すると、当たり前のことだと思える(イラスト/カータン)
【写真】カータン流“介護の心得”「親に未来の自分を重ねる」

 両親と過ごした日々を思い出し、懐かしさで胸がいっぱいになったことも。例えば、実家の片づけをしていると、フルーツ搾り器には、母親が作ってくれたジュースのおいしさが、父親のスーツにはイキイキと仕事をしていたころの姿が思い返された。

「母がヘルパーさんを拒否したり、父のせん妄に付き合って寝不足になったり、介護中は困りごとの連続。

 でも両親が自分たちにしてくれたこと、頑張ってきたことを思うと、親ってやっぱり愛おしい。そう思うと片づけ中もついウルウルして、ちっとも作業が進まなかったことも」