さらには、体調不良のネコからの咬傷(こうしょう)歴がある人がSFTSを発症し、死亡したという。

「こうした事例を受け、'18年から主に獣医学科のある大学や各県の衛生研究所、国立感染症研究所などが中心となって、全国で調査をすることになりました。その結果、多くのネコやイヌが感染していることがわかりました。

 特に、ネコに関しては640例以上の感染が確認されています('23年3月時点)。ネコの場合、感染すると致死率が約60%になります。

 また、感染動物の唾液や涙、尿にもウイルスが含まれていることがわかっており、獣医療関係者のSFTS感染例も確認されています」

 地域ネコなどにも多く感染例が見られるため、ペットとして飼っているネコであれば屋外に出さなければ、感染することはないだろう。しかし、昨今は、愛猫や愛犬と一緒に泊まることができる、自然豊かな宿泊施設も数多く存在する。

 そうした場所に、マダニが生息している可能性もあるだけに、飼い主は正しい知識を身につけておくことが必要だ。

「イヌであれば散歩から戻ってきた後は、マダニが付着していないか確認すること。市販のマダニ駆除薬などで対策を講じることも無駄ではありません。SFTSの厄介なところは、マダニだけに気をつけていても防げない点です。

 動物やペットを介して感染する可能性があること、そしてペット自身も感染してしまうと命の危険にさらされるということを覚えておいてください」

 これからの季節、キャンプやハイキングに出かける人も多いはず。マダニはもちろん、「ダニの一種であるツツガムシにも留意してほしい」と早坂先生はアドバイスを送る。

 つい先日も、青森県の80代の女性がツツガムシに刺されたことを原因とする「つつが虫病」で死亡した。

「夏場は暑いかもしれませんが、草地に入る際は、なるべく肌の露出を避けるようにしてください。刺された場合の対処ですが、つつが虫病は、先の日本紅斑熱やライム病と同様に細菌なので、抗生物質で治ります。

 体調がすぐれないと思ったら、すぐに受診するようにしてください」

 6月23日には、'22年に心筋炎で亡くなった茨城県の70代女性が、マダニが媒介する「オズウイルス」が原因であると発表された。オズウイルスの感染による症状が確認されたのは世界初だという。今年の夏は、マダニに注意が必要だ。

早坂大輔(はやさか・だいすけ)●山口大学共同獣医学部教授。野生動物を対象としたウイルス感染症の疫学調査、診断法の確立、治療薬・ワクチンの基礎研究などを行う

(取材・文/我妻弘崇)