お父さんの代筆で保護辞退届けを書かされる

 幸い、父親の手術は無事に成功し、退院後の住まいのことが問題となった。住まいとしてふさわしくない工場に戻るのは好ましくないため、医師からは施設入所を勧められていた。医師の提案は福祉課の担当職員にも伝わっていたようで、担当者から「めぐみさんは素人だから施設のこと、わからないでしょ。こっちが決めるから、決めたところに見学に行って来て」と言われる。

 桐生市が見つけてきた施設は、なぜか桐生市からかなり離れた前橋市の施設だった。小さい子どももいる身として前橋まで通うのは大変だから、市内の施設を希望すると、「桐生市はどこもいっぱいだから」とにべもない。

 これまでの桐生市の対応は、すべての局面で不適切か違法行為しかない。しかし、ここからが更にすごい。

 9月17日、めぐみさんは前橋市の施設を見学に行くように言われる。桐生市の言い分はこうだ。

「先日、前橋市で生保を受けていた人が桐生市の施設に入ったから、交換条件みたいな感じで今度はお父さんが前橋市で生保の手続きして」そして口止めをされる。「桐生の人がこう言っていたって言わないで。『父が安定した生活を送るため』って話しておいて。じゃないとなすり付け合いみたいになっちゃうからさー」

めぐみさんが残していた、当時のメモ。「桐生の人がこう言ったとは言わないで。じゃないとなすり付け合いになっちゃうからさー」との会話も
めぐみさんが残していた、当時のメモ。「桐生の人がこう言ったとは言わないで。じゃないとなすり付け合いになっちゃうからさー」との会話も
【写真】めぐみさんが残していた当時の記録と、明らかに異様、保護率が急激に下がっている桐生市

 そして、桐生市は自分たちの都合で父親を娘から遠ざけるだけでなく「一旦保護を廃止する」と言うのである。

「まずは自分たちの力で生活してみて、『やっぱりやっていけません』って前橋市で保護申請してくれる?」

 通常、保護の実施機関から他地域に移る場合、「移管」という手続きが取られ、一日たりとも保護が途切れないようにするのだが、桐生市は施設入所の段取りと引き換えに、めぐみさんに代筆で保護の辞退届を書かせる。ところが……。

 9月25日、めぐみさんは施設の見学に行き申込書を提出した。その翌日、施設から父親の介護認定手続きが為されていないことを知らされ、入所を断られてしまう。父親は保護も打ち切られ、行先すら失ってしまった。9月28日、めぐみさんは市に電話をし、施設入所を前提に辞退届を書かされたのだから辞退を撤回したいと申し出る。

あなたは桐生市を訴えたいの?

 辞退を撤回したいと懇願するめぐみさんに桐生市は「施設側がどう考えているかはこっちにはわからない。施設のご案内をしただけであって、入れとは言っていないし、介護認定も進めていない」と全責任を放棄する発言をしている。そして、「お父さん、脳梗塞も見つかったみたいだから(介護)認定はやります」と取り繕いはしたものの、「辞退を撤回したところで保護費はもう出ないんだから意味がない」と意味不明な言葉を残している。

 めぐみさんは慌てた。今月いっぱいで保護が切れてしまったら、認定を受けるまでの期間、病院代が払えない…。この件にも仲道氏が介入するのだが、桐生市側はあくまで「家族の同意のもと、辞退届は書かれた」とし、反論するめぐみさんに、「あなたは何がしたいの?桐生市を訴えたいの?そんなことしてプラスになることがあるの?」と責め立てた。この頃には、職員からの電話が鳴ると、めぐみさんの身体が震えるようになっていた。

 10月、めぐみさんとお父さんは仲道氏同行のもと前橋市役所を訪れ、父親の住民票を移し、生活保護申請をした。その際に、前橋市の職員から前橋に申請することになった経緯を聞かれ、隠し通せるものでもないと思っためぐみさんが正直に話すと、あとで桐生市の職員から電話がかかってきて、「前橋に言っちゃったんだって?ダメって約束したじゃん!」とひどく怒られた。

めぐみさんが残していた、当時のメモ.。「前橋に言っちったんだって?ダメって約束したじゃん!」「(桐生市に電話で)責められ市に行くことや電話が来ると調子が悪くなる」つらいむねのうちが綴られてある
めぐみさんが残していた、当時のメモ.。「前橋に言っちったんだって?ダメって約束したじゃん!」「(桐生市に電話で)責められ市に行くことや電話が来ると調子が悪くなる」つらいむねのうちが綴られてある

 父親は前橋市と渋川市の市境にある介護施設に入所した。若年性認知症を発症し、2年後に亡くなった。63歳だった。

 結局、桐生市で生活保護を受給したのは3か月ほどの短い期間だったが、その間にめぐみさんが不当に受けた傷は深い。9年の時が経ち、「やっと話せるようになりました」と、桐生市とのやり取りをすべて記録したメモや書類を見せてくれた。それを読む限り、桐生市の対応はすべてのプロセスが不適切と違法行為のみで構成されていて、一つ一つ検証するには紙面がとても足りない。