救急科の医師の負担が深刻

「『どうして有料化したんだ』、『高齢者からの徴収はしないでほしい』、『救急車を呼ぶのをためらうのでは』といった声もありますが、今回の取り組みの趣旨をしっかりと説明させていただき、単純な救急車の有料化ではないことをお伝えしています。厳しいご意見だけではなく賛同もいただいています」

 今回の松阪市の決定を受け、「救急車の不要不急の乱用だけでなく、地方の医療体制の脆弱さも新制度導入の要因のひとつでは」と指摘するのは、医療経済ジャーナリストの室井一辰さん。

「都市部への人口集中や少子高齢化などに伴い、地方での医師不足は年々深刻化しています。病院や診療科・医師が偏在しており、住んでいる地域によっては、何時間もかけて通院をしないといけないというのは珍しくはない。

 さらに、今年の4月から医療の現場でもいわゆる“働き方改革”がスタートし、医師の負担を減らそうとする取り組みがあります。それも今回の決定に影響しているかもしれません」(室井さん、以下同)

 医療現場でも一般の会社員と同様に労働時間の上限規制が厳格に適用される影響で、これまでのような診療を続けていくことはむずかしくなるという。

「基本的に年960時間を超える時間外労働ができなくなります。実はこれまで診療科によって勤務時間には大きなばらつきがあり、救急科など急な対応を迫られることの多い診療科は長時間労働が当たり前でした。

 過重労働の目安である、週60時間を超えて働いている医師の割合を診療科別に計算すると、救急科は40%を超えている。医師に負担をかけて成り立っていた救急外来の働き方を是正するのには、人員の余裕を持たせることは重要。病院の人手が足りなくなることに対応した判断だったのではないでしょうか」

救急車を呼ぶか迷ったら

 今後、松阪市以外の地方都市や首都圏でも、救急車利用による選定療養費の徴収が導入される可能性はあるのか?

「実は救急搬送後の選定療養費は松阪市だけでなく、愛知県の豊川市民病院などでもすでに導入済み。ほかの地方自治体でも導入される可能性は十分あるかと思います。救急車は緊急のときに使うべきという意識を高めるのが重要というのは、どの自治体でも変わらないからです」

 では、救急車を呼ぶかどうか迷う場合、どう対応するのがよいのか。

「救急車を呼ぶか迷った際には、『#7119』に電話をするのがよいと思います。『#7119』とは、医師や看護師などが電話で症状を聞き、緊急性があるのかを判断する相談窓口です。急いで病院に行くべきか、すぐにでも救急車を呼ぶべきかなどのアドバイスが受けられます。しかし、全国すべての地域で実施されているわけではないので、注意してください」