そのときの自分が弾けない楽曲を書く

初めて出演した『アンブリアジャズフェスティバル』でジャズ・ピアニストのアーマッド・ジャマルと
初めて出演した『アンブリアジャズフェスティバル』でジャズ・ピアニストのアーマッド・ジャマルと
【写真】上原が影響を受けたジャズ・ピアニストのオスカー・ピーターソンと

 上原にジャズ界でも異質な立ち位置をもたらした理由は、彼女の経歴で「バークレー音楽院ジャズ作曲科卒業」とあるように、ジャズの歴史と伝統を学びつつ、作編曲家として楽曲を作り続けていることに起因していることだろう。

 無論、その魂までも爆裂させるような演奏が印象に残るのも事実だが、実はそこに緻密な設計図の上に構築された構成美があるからこそ、あの縦横無尽な奏法が生きてくる構造仕立てになっている。本人としては、作編曲家とピアニストのバランスは、どのように配分しているのだろうか。

「私の中で、作編曲家とピアニストのどちらが上というのはありません。それは、完全にセパレートして考えているので。だけど、楽曲を書き始めたころから、その段階のピアニストの自分がまったく弾けないような楽曲を作って、それを弾けるようになっていくというのが、ずっと続いてきた感覚があります。

 今回のアルバムは、プロデューサー&作編曲家の自分が、ピアニストの自分を雇っていると考えてもらえたらいいかもしれない。彼女なら、こう弾くからこういった感じで楽曲を書く、という点はあるんじゃないかな。

 だから作曲家としての自分は、世界中からピアノ以外の楽器で私の楽曲を演奏したYouTubeの動画が送られてくると、何か楽曲が成長して帰ってきたみたいでうれしいんですよ(笑)。楽曲を書くのは自分の欲求ではあるけど、そこで誰と演奏するか、そしてその人がどんな解釈をするのかが、自分にとっての重要なインスピレーション・ソースになっているんだと思います」