「できるだけ自分で」だからこそ今がある

幼少期から続けている狂言師。手が不自由ながらも扇子を使いこなすなみきさん
幼少期から続けている狂言師。手が不自由ながらも扇子を使いこなすなみきさん
【写真】「手羽先のように曲がってる」なみきさんの手

 周囲の助けもあって、地元の小、中学校へ進学し、高校は情報系の学校へ。

「中学に入ってからは同級生から嫌ないじりが増えて……。排泄や食事など、できるだけ自分でやるように心がけました。今、健常者と同じような生活をこなせているのは、サポートなしで生活をせざるを得なかった時期があったから。ありがたくもあり、でも当時は苦しかったですね」

 卒業後は、障害がある子どもたちを預かる事業を手がける会社に入社。主に経理の業務を担当して、3年間働いた。そして仕事と並行し、SNSで趣味のハンドメイド作品や手料理を投稿するように。

「ハンドメイド歴は中学3年生から。ちょうど生まれた妹のためにと始めたのがきっかけです。ハンドメイド作家の動画を参考に、見よう見まねで始めました」

 その後、諸事情で仕事を辞め、将来に悩んでいたところ、祖父母が道の駅で経営している野菜屋に「ハンドメイド作品を出してみないか」と提案をされ、趣味が仕事に。編み針もミシンも使いこなし、毛糸のコースターや、ぬいぐるみ、キーホルダーなどを作る。最初はオーダーが頻繁にはなく、再就職活動も同時に行っていたとき、母から“ハンドメイド作家が集まる即売会があるよ”という話を聞き、定期開催をしていたショッピングモール内でのマルシェ出店にこぎつける。そこでは新たな出会いが待っていた。

「同じ会場にいた、ローカルタレントの山本カヨさんと話す機会があったんです。その後、山本さんからのお誘いで、彼女が主催するイベントに参加するようになりました」

 それが縁となり、ハンドメイドと並行しながらやっていた狂言師のお仕事やイベントのMCなど、世界が広がっていく。

 これまで大きな挫折や悩みはなかったのだろうか?

「壁だなと感じても、それを壊して進んできました。障害者用の使いやすくて便利な道具もありますが、周りと違うのは嫌で、健常者用のハサミでガタガタになっても切っていくような人間なんです」と笑う。

 マルシェでは、設営から片づけまで、ひとりで行う。

「売り上げの管理など、社会人での経験も活かされていて、今までのことは全部無駄じゃなかったと思えます」

 現在は母と15歳差の妹と3人暮らし。基本的に家事全般をなみきさんが担当しているというのにも驚く。健常者でも苦手な人が多い、揚げ物も得意で、好きな料理はメンチカツ。平日はそのほかに掃除、洗濯、学校に行く妹を車で送迎もする。家族の喜ぶ顔がモチベーションだ。

 そして、家族と同じくらい大きな存在になっているのが、マルシェのお客さんやSNSを通じて知り合う人たち。

「マルシェに直接足を運んできてくれたお客さんが購入した品物を身につけて再来店してくれたときに“これ気に入っているんだ”と話してくれるのは、ものづくりをしている人間としてはすごくうれしい瞬間。現地に来られない人に郵送したことも。作品が思いどおりの形にならないことはあるけど、その過程も楽しんでいます」