初めての拒絶はアルバイトの面接
両親や周囲の支えと理解もあり、むろいさんは水泳にバスケ、サッカーなど習い事にも挑戦し、健やかに成長していった。一方で思春期には、同級生たちと写真を撮る際に、みんなでおそろいの両手でハートをつくるポーズができず落ち込んだり、恋愛に積極的にはなれなかったりといった悩みもあった。
葛藤を抱えつつも、生活面においての苦労はほとんどなく、大学にも進学。
「自分自身が障害者だからこそ、ほかの障害がある人たちの生活にも関心があって。社会福祉を専攻しました」
初めて「社会の壁」に直面したのは、大学時代のアルバイト探しだ。
「周りの子たちと同じように、おしゃれなカフェや居酒屋で接客業をしてみたくて。いざ面接となって右手のことを話すと、『うちの店では難しい』『お客さんの前に出せない』……など。かなり苦戦しました」
実際に受けたバイトの面接は、なんと40社以上。
「やる前から“あなたにはできないでしょ?”と決めつけられてしまうのは、やっぱり悔しかった。でも、それが現実なんだなと、社会人になる前に知れたのは今となっては良い経験だったと思います」
ようやく雇ってくれたのは、とあるチェーンのスーパーマーケット。理解ある店長に救われたという。
「食材などの品出しを担当していました。ただ、このままだと就職活動のときも苦戦するなと思い……。自分を受け入れてくれる業界、と考えたときに、人手が足りず、さまざまな障害への理解が最初からある福祉業界に行くべきなんじゃないかって。なので、障害者支援施設でのアルバイトも始めたんです」