不幸とは、人と比べることだと断言する鎌田先生。まさに、同級生の美しい弁当と自分のコロッケ弁当を比べ、厳しい境遇や貧しさを噛みしめていた。
人と比べないようにすれば楽
「乗り越えるのに時間はかかったけど、貧しい中で病気の母が精いっぱい作ってくれた弁当。恥ずかしいことなんてひとつもないんだと思えるようになった。
そもそも、人と比べないようにすれば楽なんだと、子どものときに身をもって学んだわけです。SNSが浸透し、他人と比べずに生きることがますます難しい世の中だけど、それを自分なりにどう乗り越えるか。一度考えてみてほしいなと思います」
子どものころの鎌田先生を襲った試練は、生い立ちや貧しさだけではなかった。当時、小中学生を対象に実施されていたIQ検査で、標準値よりも低いという結果が出たのだ。
「担任の先生から直接結果を告げられてね。でも、特に落ち込まなかったよ(笑)。だってノーベル賞を目指してるわけじゃないし、人よりIQが低いなら人より少し努力すれば進学ぐらいはできるだろうって、楽観的でした」
自らを“変人でおかしな人”と称する。それはやはり、生い立ちが強く影響しているせいではないかと考えている。
「生みの親に捨てられ、親切な夫婦に育ててもらったけども、無意識下では“また捨てられないようにしなきゃ”っていう思いがあったと思う。そんな環境で生きてきて、子どもながらにある意味達観しちゃったんでしょうね。自分の人生を悲観せず、冷静に俯瞰する癖がついていたのだと思います」
IQが低いのなら、と、毎朝4時半に起きて勉強。難関の都立高校に見事合格し、将来は医師を目指すことに決めた。だが大学進学にはお金がかかる。父親には「ばかやろう、貧乏人は働けばいいんだ」と進学を反対された。
だが、どうしても諦めきれない。お互い激しくぶつかり合い、最後に父親は泣きながら
「俺は何も応援できないが、もしおまえが医者になったら貧乏な人や弱い人のことを絶対に忘れるな」と言い、夢を認めてくれた。
「でもね、何がなんでも医学部合格だとがんじがらめになっていたわけじゃない。不合格なら大学へ行かずに寿司職人になろうと本気で思っていたから。だって面白そうだし、わくわくするでしょ(笑)。
大学に入ることが目的となっている今の学生たちは信じられないかもしれないけど、重要なのは大学に入ることじゃない。人生で自分が何をしたいかをじっくり考え、言葉にすることです」
特殊な境遇で育ったからこそ、人との違いを強みに、いかに面白く生きるかを常に考えてきた。