放射線治療や抗がん剤の投与がないため、術後は“普段どおりの生活”ができるはずだったが、日常での不便さはいろいろと出てくる。

全摘という決断をしたことに後悔はない

当初は腕が肩ぐらいまでしか上がらず、重いものが持てないだけでなく、洗顔や着替えをするだけでもひと苦労。10分くらいでできた身支度に40分くらいかかってしまい、人や物との距離感もうまくつかめませんでした

がん経験を発信する際に気をつけていることやSNSの活用法について、トークイベントに登壇
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【写真】乳がんになりやすい人の特徴

 仕事は手術から約半年後に、まずは自身の運動も兼ねて、ストレッチポールを使ったトレーニングの講師として復帰。「スタイリストの前で着替えをすること」や「洋服をきれいに着られるか」と不安だったモデル活動も、パッドの入った下着を使えば問題がないと再開をしていく。

 手術を受けた病院では、乳房再建手術は行っていなかったため、まずは全摘の手術のみだったが、現在も乳房再建の手術は行っていない。

人それぞれいろいろな考えがあると思います。私の場合は、再建手術は自分のお尻やお腹などの脂肪組織を移植するので、胸のために他の部位を切ることへの迷いや、痛みや圧迫感、合併症のことなどを考えているうちに時間がたってしまいました。今は『しなくてもいいかな』という気持ちになっています

 手術から約4年がたち、今年の3月で47歳となった佐藤さん。

乳がんは進行が遅いとされており、10年は経過を見る必要がありますが、検診では大きな問題はなく、左胸に関してはほぼ再発はないと言われています。全摘という決断をしたことに後悔はありません

 当初感じた不便さも、ほとんどなく日常生活を送ってはいるが

下着や洋服選びは、ちゃんと試着しないと、肌のどこに当たるかわからないので難しいですね。あと、気圧の変化に体調が左右されるようになりました

 と、以前との違いは、やはりあるそう。そして、生き方への考え方が大きく変わった。

以前は、何事も200%、300%の力を出そうとしていました。でも、今はがんばりすぎたり、考えすぎることが、不調となって自分の身体と心に返ってきてしまってはダメだと思うように。自分を大切にして、その場、そのときを楽しみたいですね

 前向きな気持ちは原動力となり、現在はモデルとコンディショニング・インストラクターの活動に加え、発酵食品を中心とした料理教室なども行い、美と健康の総合プロデュースを手がけ、講演活動も行う。

 モデルの仕事だけをしていたときに比べ、地元に根ざした活動が増え、仕事の幅も人間関係も広がっている。さらに、ブログやSNSで、自身の体験を発信。同世代の女性や同じがん患者からの共感の声が多数届けられる。