主治医のひと言で婚活を始める
90キロの体重と精神科通院。職歴も貯金もない27歳のある日、主治医から「結婚すれば?」と言われた。その言葉がきっかけで婚活を始めた。
「主治医のことはそれなりに信頼していました。心の底から“良く”なりたかったんです。そのころの私がイメージしていた“良くなる”というのはいわゆるレールに乗るというか、普通の営みをできるようになりたいってことなのかな。
母の毎日は、どこか行くところがあって、帰ってきて、寝るという繰り返しですが、そういうことができるようになりたかった。やらなければならないことがあって、行くべき場所があって。そういう普通のことがどうして私にはできないの?って羨ましかったんです。母のようになりたいわけじゃない。多くの人がやっていると思われる営みを私もしたかったんです」
婚活のイメージは、相談所に行き、見合いするとか、お見合いパーティーに参加する、というものだった。
「マッチングサイトやアプリは危ないと思っていました。ようやく婚活をするために外に出ようとして、久しぶりに鏡を見たんですが、『力士がいる』と思いました(笑)。眉もつながっていて。体重は婚活がキツすぎて、過活動で痩せていきました」
結局、婚活には8か月間、集中して取り組んだ。
「逆ナンもしたことがあるんですが、しゃべることがないんです。何をしているかという話になっても、『精神科に通って婚活しています』とは言えない。聞かれてもいいように、バイトをするようになりました。
稼ぐことが目的ではないので、収入にこだわらない。引きこもりや対人恐怖は、継続的な関係を築くのは苦手ですが、初対面には強い」
その結果、結婚相手が見つかった。今の夫である。
「婚活に励む私を見た仲間が紹介してくれたのが夫です。彼は高校生のときに交通事故に遭い、足にケガを負って身体障害者となりました。でもそのことで誰かに寄りかかろうともせず、自分のことは自分でなんとかする、というタイプ。彼は“なんだか一生懸命な人だな”というのが私への第一印象みたいです。夫の実家は駅から2時間近くかかる田舎で農業を営んでいます。みんなよく笑いよく食べケンカをしていて心底まぶしくて。彼の家族の一員になりたい!と強く思ったんです」
婚活の次は妊活。体外受精で長女、そして長男を授かった。
「妊娠がわかってすぐに区役所で『特定妊婦』に指定してください、と頼みました。特定妊婦とは支援が必要な妊婦のことです。虐待などの被害を生まないために保健師さんが要注意な妊婦を必死に探しているので“自分から名乗り出る人は初めて”と驚かれました(笑)」
結果、さまざまな支援やサービスとつながった。
「子育てに関してもやりすぎてしまうところがあるんです。ハロウィンの日に恐竜の着ぐるみを着て息子や子どもたちを脅かしたりしていたら通報されたり(笑)。
今も子どもたちは何より大事な存在です。だからしがみついてしまうのではないかと怖い。仕事という居場所ができて子どもから精神的に距離を置ける時間は私にとっても子どもにとっても良かったと思いますね」