書くことで世界とつながる。まだマシに生きていける

 元引きこもりの主婦が本を出すことになったきっかけは、貧困を扱った講演会だった。質疑応答コーナーで石田さんが講師に質問をしたところ、会場にいた編集者の目に留まったという。

「質問コーナーなのに自分の経験をバーッと話す私を見て“何か書かせたら面白いかも”と考えてくれたみたいです。私はすぐ飛びつきました」

 声をかけてきた編集者に、「書籍発売前に『note』に公開してもいいか」と許可を取り、それが前出の鈴木さんの目に留まった。鈴木さんは、

「精神疾患、発達特性、暴力のサバイバー……当事者が自身を語るって難しい。苦しさや孤独の訴えとか。他者への申し訳なさとか。そこから這い上がったストーリーを語る人が多いんですけど、どれも曖昧な像でしかない。しかし、石田さんは全部を内包した文章を書いていて、突出した人が出てきたなと思ったんです」

 次回作の出版も決まっているといい、石田さんは目を輝かせる。

「まだまだ稼げていないし、夫には認められていません。でも、私は書き続けたいんですよね、自分のためにも、子どものためにも。今でもフラッシュバックが起きたり、うつに引っぱられたりと、乗り越えたわけではない。

 それでも私の夢は150歳まで生きること(笑)。生きて作品をたくさん書きたい。なんで150歳かというと、私は物書きデビューが40歳近くと遅かったので、いろんなものを見て、たくさん書きたいんです」

 引きこもっていた時間を取り戻すように石田さんは貪欲に走り続ける──。

<取材・文/渋井哲也>

しぶい・てつや '69年、栃木県生まれ。新聞記者を経てノンフィクション作家に。援助交際、いじめ、生きづらさを抱えた人々への取材を中心に多くの著作がある。主な著書に『ルポ 平成ネット犯罪』など。