厚生労働省が2022年に行った「国民健康・栄養調査」では、20代から30代の女性の20.2%がBMI18.5未満の“やせ”の状態。実に5人に1人が低体重であった。原因として、若者に人気の女性芸能人や、K-POPアイドルなどの影響も少なからずあるかもしれない。
時間をかけて一歩ずつ、不健康な状況を脱する
「実際に患者さんの中にも、芸能人やインフルエンサーに影響を受けている方は一定数いらっしゃいます。自分の願望の対象者がやせ体形であるために、その人に近づくための方法のひとつとして、食事を制限してしまうのです」
SNSのダイエットアカウントでは、“スペ○”という用語が蔓延している。スペとはスペックの略。○には身長から体重を引いた数字が入る。
《あと2キロやせたらスペ110だからがんばる!》《かわいい子ってみんなスペ120》などの表現が散見されるが、これにあてはめると身長160cmの女性が“スペ120”を目指すには、体重を40kgまで落とさなければならず、BMIは15.63とかなりの低体重だ。
オーストラリアでは、2024年12月に16歳未満の子どもがSNSを利用することを禁止する法律が成立している。海外では、SNSが子どもの摂食障害を招いたとして、運営事業者に対する訴訟が起こったケースもある。
これを受け、多くの運営事業者は過度なダイエットを助長する投稿を禁止する方針をとっているが、今も対策は十分ではなく、野放しに近い。
最近では、患者の低年齢化も目立つ。特に小児に多いのが“回避・制限性食物摂取症”で、食事の拒否や、ごく少量しか食べられない状態が続く。
体重減少や低栄養状態が主な症状だが、自身の体形や体重へのこだわりがない部分が“神経性やせ症”や“神経性過食症”と異なる。
「人前でたまたま食べ物を吐いてしまった嫌な記憶や、食べ物が発するにおいなど、原因はさまざま。ほかの摂食障害と同じく、社会的孤立や心の傷が関係することもあります。新しい概念ということもあり、まだ詳しくわかっていないことも多い疾患です」
思春期に体形が急激に変化し、戸惑いや不満を抱えるのは自然なことでもある。しかし自分の子どもが過度に気にする様子を見せた場合、親はどう寄り添うべきか。
「食事量の極端な減少、増加はもちろん、急に運動量を増やす行動もひとつのサイン。この時点では焦って無理に食べさせようとせず、まずは話を聞いてあげてください。責めたり怒ったりせず、体重や食事が気になってしまう状態を受け入れてあげることが大切。一緒に食卓を囲むなどの見守りや寄り添いが、本人の安心感につながります」
ごく初期では、親子の会話で体重に対する認識が正常化する場合もあるが、食事制限が加速して生理が止まったり、疲れやすい様子を見せたり、顔が青白く、肌がかさつく、むくむなど典型的な摂食障害の兆候が見受けられた場合は、医療的介入も必要だ。
「体重管理だけではなく心の治療も重要で、誰にでもあてはまる劇的な治療法はありません。経過は一人ひとり異なり、神経性やせ症から神経性過食症への移行や、再発を繰り返すこともあります。
患者さんと信頼関係を構築しながら、体形や食事に対する正しい教育を続けることが基本で、命に関わるような場合は入院をすすめることも。時間をかけて一歩ずつ、不健康な状況を脱することを目指します」
厚生労働省は2014年から“摂食障害治療支援センター設置運営事業”を開始し、現在は東京、宮城、静岡、福岡など全国8か所に拠点病院を設置。ホットラインの運営や、理解を深めるための啓発活動を続けているが、研究が進むイギリスやアメリカに比べ、増え続ける患者に対する受け皿は十分とはいえない。
摂食障害は単なるダイエットの延長ではなく、心が発するSOSのサインでもある。一刻も早い、国を挙げての抜本的な対策が待たれる。
取材・文/植木淳子
金澤素先生 心療内科医。1991年に東北大学病院の心療内科に入局し、2024年4月から科長(特命教授)を務めている。