《40歳になったら死のうと思っている。現在38歳と2ヶ月だから、あと2年足らずだ》から始まる『ダーク』は、2002年に出版され、クールなミロを期待していた読者を唖然とさせた。
子どもができることは、弱みにもなるんですね
ミロは情念に突き動かされ、追っ手と死闘を繰り広げる。息つく間もないセックス&バイオレンスの破壊力は強烈だ。
「読み直して、驚きました。自分が作り上げた世界をここまで壊していたとは」
書いた本人もあきれたように言う。桐野さんの作品は、常に社会や常識と対峙し、読み手に強烈なパンチをくらわす。それは同時に、批判にさらされることでもある。
「セックスシーンを書くと、知人から“そういうこと考えている人、気持ち悪い”って言われ、傷ついたこともあります。いろんな人から散々言われ、批判され、荒野に裸で立っているような感じで、つらかったです。作家とは、そういう仕事なんですね。今はもう全然平気だけど」
ちょっとハスキーな声で話す姿がカッコいい。
「不思議なもので、覚悟を決めて突き抜けると受け入れてもらえるんです。『ダーク』は面白かったってよく言われて、ありがたかったです」
『ダーク』で壊し切ったはずの世界だが、焼け跡から草が芽生えるように、生まれてきたものがあったそう。
「ミロは、子どもを産む選択をしたので、母親になったミロを考えてみたかったし、子どもはどうなっているのかなとも思いました。20年たったら、書いてみようかと思ったんです」
20年後、ミロは『ダークネス』に母親になって現れる。
「ミロはちょっとマイルドになっていますが、それも生きていく中での変化のひとつ」だと桐野さんは言う。
子どもが気がかりで、離れていくのが不安な母親としての逡巡も描かれ、共感を覚える読者もいるだろう。
「子どもができることは、弱みにもなるんですね」