有吉とビートたけしには共通点がある

 有吉さんが「もう行かない」といったお店そのものが特定されるのもよろしくないですし(お店の接客が気に入らないのは有吉さんの問題なので、他人が制裁を加える権利はありません)、無関係なお店が「あそこではないか」と決めつけられて被害を受けるのはもっとよろしくない。有吉さんは「お店の二番手の人が接客してくれた」と言っていましたから、そうなると間違った正義感の持ち主は有吉さんの敵とったると、個人攻撃をしてしまうかもしれません。お店が経営的な打撃を受ける可能性だってあります。

 もしこういうことが起きたとしても、もちろん、それは有吉さんのせいではありません。けれど、自分の発言がもとでこういうトラブルが起きうるかもしれないと予測しなかったのでしょうか。今の有吉さんならお店をつぶすことは不可能ではないのです。

 有吉さんは飲食店での特別扱いが嫌なタイプだそうです。芸人の大先輩・ビートたけしさんは『バカ論』(新潮社)で、「おいらには昔から癖のようなものがあって、それは、どんな店に飯を食いに行っても偉そうにできないこと」と書いています。お店の人に特別扱いをしてほしくない有吉さんと、お店の人に威張りたくないビートたけしさんは「人気芸能人だからといって偉そうにしない」という共通点があると言えます。

 でも、違う点もあります。たけしさんがお店に来ると、お店側はサービスとして高級なお料理や高いワインを出してくるそう。たいていはおいしいけれど、ときには「そうでもない」と思うこともあると言います。しかし、口には出さず、「ダメだったり気に入らなければ、二度と行かなければいいだけのこと」とそっと離れると明かしています。

 お店側はたけしさんに常連になってほしいでしょうから、こういうふうにしてほしいと改善を求めればかなりの確率で聞き入れてもらえるはず。しかし、たけしさんがそれをしない理由は「客商売をやっているところに行って、ケチつけたりするのが大嫌いなの。それはメシ屋でもソープでもどこでも同じ」と説明しています。これは、その店を嫌うのは自分の自由だけれど、だからといってその店を否定しない、ビジネスを邪魔したくないというたけしさんの“思いやり”だと思います。

 お金を払う相手のことも尊重するというのは、たけしさんの師匠、深見千三郎さんに叩きこまれたそうです。深見さんは食事代とは別に、板前さんに祝儀を渡すことを欠かさなかったそうですが、「店を出てからご祝儀を渡すこと」と教わったそう。なぜなら、お店の中で渡せば、板前さんたちは気を使って挨拶に来なければいけないから。みんなが見ているところで、板前さんに「ありがとうございます」と頭を下げられたら、悪い気はしないでしょう。

 しかし、板前さんの立場になってみると、仕事を中断して、人前で頭を下げなくてはいけないわけですから、そのあたりを配慮したのでしょう。資本主義社会ではお金を払う側がどうしても立場は強くなりがちですが、「立場が強いからといって、相手への思いやりを欠くようなことはしない」というのが深見さんの教えで、それをたけしさんは守り続けているのかもしれません。