市は、この395か所という数字を根拠に「必要な数は確保できている」という立場を崩していない。そして、選定基準に用いる「2,300人/日」という数値も、中間とりまとめ本紙の注釈によれば、「喫煙所の設置必要数(当初120か所と算定。民間の既存喫煙所の改修による一般開放20か所を加え市の目標は140か所に)の算定に用いた、喫煙所利用可能数」をベースにしているという(注)。つまり、これは過去に「120か所の設置で十分」とするために利用を前提として想定された人数であり、現在の利用実態やポイ捨ての深刻度を反映した数字ではないのだ。

 行政は、市民の利便性向上や喫煙環境の実態ではなく、過去に定めた目標値ありきで算出された数字を判断基準に使っている。今回の追加措置は、あくまで「喫煙所はあるが、喫煙マナーの悪い人のために仕方なく追加で作ってあげます」といった、極めて腰の引けた姿勢の表れだと言えるだろう。そこには、現場が感じている「すでにあるが、全く足りていない」という発想が決定的に抜け落ちている。

万博の「負のレガシー」となりかねない中途半端な対策

大阪市役所本庁舎(大阪市北区)

 今回選ばれなかった、喫煙所対策が必要とされる残りの48エリアはどうなるのか。

 大阪市は、週刊女性PRIMEの説明に対し「検証の中間とりまとめで公表した63エリアについては、年末頃の最終とりまとめに向けて、具体的な対策を検討しているところです。最終とりまとめ結果を踏まえ、15エリア以外についても、令和8年度以降に必要な対策を講じていきます」と説明している。

 しかし、万博開催直後の来年度(令和8年度)以降の喫煙所設置に関わる予算が確保されるかについて、市は「予算編成の過程であるため、現時点ではお答えできかねます」と慎重な回答に終始した。

 大阪・関西万博は閉幕したが、万博の準備期間から継続した課題であったはずの喫煙所の増設に対し、来年度の予算すら確約できないという対応は、スピード感を欠いていると言わざるを得ない。

 大阪市は市内全域の路上喫煙を禁止にするという「厳しい規制」を断行した。であれば、それに伴う「受け皿の整備」は、街の美化を守る行政が責任を持って果たすべき責務である。その責務を数字上のつじつま合わせで回避し、「マナーが悪いから仕方なく追加」という姿勢で臨む限り、この問題が解決することはないだろう。

 大阪・関西万博(10月13日に閉幕)を見据えて実行に移した市内全域の路上喫煙禁止だが、市民の不満とポイ捨てによる景観の悪化をもたらしたのなら、すでに「万博の負のレガシー」と言えるのかもしれない。

 市民が、そして事業者が求めているのは、数字上の達成感やアリバイ作りではない。喫煙者と非喫煙者が真に共存できる環境を、行政が「喫煙所の不足は行政の責任」として責任感を持って整備することではないだろうか。

  週刊女性PRIMEの取材に対し、「本市としては、路上喫煙のない、美しいまちの実現をめざして路上喫煙対策を進めています。(中略)最終とりまとめに向けて、万博閉幕後の動向を確認するため定点調査等を実施するとともに、地域の実情に精通した各区役所とも連携し、それぞれのエリアの状況を踏まえながら、路上喫煙をなくしていくために必要な対策について検討を進めていきます」とも回答した大阪市。15か所追加設置以後もスピード感を持って対応にあたることが求められている。

注…13㎡の大阪市堂島公園喫煙所は定員11名。1回あたりの喫煙時間を4分とし、1日14時間供用した場合、同規模の喫煙所で、14×60÷4×11=2310なので1日延べ2310人利用できるという計算。