母親を絶望させた家庭相談所の対応

 それ以上、ショックを受けたくなくて、サチコさんは夫に理解してもらうことをあきらめたという。その後は孤軍奮闘することになる。

 ハルト君を集団の中で遊ばせたほうがいいのではと思い、公園にも連れて行ったが、他の子に意地悪をされてもハルト君はやられっぱなし。親は口出しをできない雰囲気で注意もできず、サチコさんはいたたまれなかった。リトミック(音楽によって基礎能力の発達を促す教育)も試してみたが、ハルト君は一緒にやろうとしない。他の子には見向きもせず、1人で黙々と遊んでいた。

 リトミックの先生にすすめられて、2歳半のとき相談センターに行き医師の診察を受けると、発達障害の一つであるASD(自閉スペクトラム症)と診断された。

 育てづらい背景には障害があるとわかり、サチコさんは少し気が楽になったという。だが、息子と関わる時間の少ない夫は理解できず、医師の説明を一緒に聞いたのに、「うちの子は普通じゃないか?」と言っていたそうだ。

 診断が下りても日々の大変さは変わらない。息子を叩いてしまうことを相談したくて、家庭相談所に行ったときのこと。面談した女性職員にこう言われた。

「いちばん子どもを理解しているのは母親でしょう」

 その言葉を聞いてサチコさんは絶望感に襲われたという。

「私は理解できないから相談に来ているのに、理解できないから手をあげちゃってるのに……。母親のイメージはそうなんだ。じゃあ、理解していない私は、母親の枠から外れるのかなって。

 1人であっちこっち行ってへとへとになっても、どこでも答えが見つからない。ずっと暗闇でもがいている感じでしたね。息子を産んだことを後悔したのはこのころです」

 連載初回で紹介した書籍『母親になって後悔してる、といえたなら』の中にも、サチコさんのように母親が1人で育児を抱え込み、自分の苦しさを伝えても周囲の人たちになかなか理解してもらえないケースが登場する。