息子をかわいいと思えない意外な原因
サチコさんが探したのは自助グループだった。同じようなつらさを抱えた者同士が問題の克服を目指して集う場だ。どんなグループか尋ねると、サチコさんはしばらく逡巡した後、意を決したように口を開いた。
「それは……性被害です。家族や身内からの。私の父親はお風呂を覗くとかセクハラ行為をしていたんですが、2歳上の兄のほうがひどくて……。私が小学3年から6年くらいまで、親が留守になると、兄がそういうことをしてきて。
プロレスの技をかけられたり暴力的な兄だったので、怖くて抵抗できなくて……。私は母親に何度も助けてくれって言ったんです。なのに助けてくれなかった。だから、私はあきらめて受け入れるしかなくて。自分でふたをしていたんですね」
サチコさんは自助グループに参加し、みんなの前で泣きながら、過去の忌まわしい体験をすべて吐き出した。
「あんなに泣いたことはないというくらいバーッと出せたとき、自分の中にぽっかり空いていた空虚な部分が埋まった感じがしました。友達にも告白したら、大変だったんだねと一緒に泣いてくれて。
そういう作業をちょっとずつやっていったら、言いたいことは言っていいんだって気づいたんです。もう嫌なことも言うぞ!いい子じゃなくていいんだぞ!って」
サチコさんは夫に対しても、ずっと言いたいことを言ってこなかった。息子が幼いころ育児のつらさを訴えたら、「え、だって母親ならみんなやってることじゃない。何でできないの?」と当然のように言われて衝撃を受けたが、そのときも何も言い返さなかった。その後も、夫の態度を不満に思うことがあってものみ込んできたのだ。
どうして何も言わなかったのかと聞くと、サチコさんは少し照れくさそうに答える。
「私、夫のことがすごい好きなんですよ。だから、子どもへの愛情のないひどい女だと思われたくなかったんですね。それに、私の母親も言えないタイプだったので、嫌なことは言っちゃいけない、いい子でいなきゃいけないと刷り込まれていたのかもしれないですね」
最後のひと押しをしてくれたのは、本の著者であるNHKの2人が手がけた特集番組だ。母親になった後悔をテーマにしたその番組を、たまたま夫と一緒に見ていたサチコさん。気がつくと夫に向かって、こう口にしていた。
「ああ、私もこの母親の気持ち、すごくわかる。私も、こういうことがあったのよ!」











