母親にばかり責任を取らせないで!
ハルト君の主治医には「パニックになったら、安全な部屋に入れて離れてください」と言われているので、指示どおり様子を見ていた。静かなのでドアを開けてみると、ハルト君がベルトで自分の首を絞めている姿が目に入り、慌てて止めに入った。
「真っ赤な顔をして鏡を見ているから、焦っちゃって。どうにかベルトを外せたからよかったんですけど、何でこんなことするのと聞いたら、『死ぬってどういうことなのか、実験してみた』と。本当に怖かったです。小憎らしいと思うこともよくありますよ。でも、しゃべっているとすごく楽しいし、今はこの子がいてよかったなと思います」
でもね、と言って、サチコさんは強い口調で続ける。
「ずっと母親として背負わされていたものが重かった。それがなかったら、子育てはあそこまで苦しくなかったのかもしれないと思いますね。だから、母親にばっかり責任を取らせないでほしい。
奴隷とまでは言わないけど、愛情深くて、子どものことは何でも知っていて、家事も完璧で、社会の何でも屋みたいな母親のイメージを、ほんとぶっ壊したいです」
もし、子どもを産む前に戻れるとしたら、もう一度子どもを産みますかと聞くと、サチコさんは「難しい質問ですね……」と言って考え込んだ。
「どっちとも言えないですね。みんながかわいいと言う乳幼児期が私にはつらい時期だったから、心から子育てが楽しいとか言っている人の気持ちが、いまだによくわからないんですよ」
◆
次回は家を継いで2人の子どもを産んだ地方在住の女性の話をお伝えする。
はぎわら・きぬよ 大学卒業後、週刊誌記者を経て、フリーライターに。社会問題などをテーマに雑誌に寄稿。集英社オンラインにてルポ「ひきこもりからの脱出」を連載中。著書に『死ぬまで一人』(講談社)がある
取材・文/萩原絹代











