夫への不満爆発で育児にも変化

 そして、それまで言えなかった不満を、初めて夫にぶつけることができた。

「昔こんなことがあったとかワーッと言った流れで、『私と息子に土下座しろ!』って夫に言ったんですよ。夫は引いてましたけど(笑)、土下座して『悪かった』と謝ってくれたので許しました。そういうところがあるから、やっぱり好きなんですよ。

 自分が抱えている問題と関係があるのかわかりませんが、夫に何でも言えるようになったころから、息子のことも認められるようになったというか、心からかわいいなと思えるようになった気がします」

 サチコさんは両親にも電話をして性被害のことを話した。だが、母親には「何で嫌だと言えなかったの?」と聞かれ、「あのとき助けてって言ったのに」と怒りが湧き、自分から連絡するのをやめた。

 両親とケンカしている姿を息子には全部見せようと思い、「おじいちゃん、おばあちゃんに嫌なことをされたから、電話もしないし、実家には行かないんだよ」と伝えたそうだ。

 現在、ハルト君は特別支援学校の高等部2年生だ。カウンセラーの助言で、その日、学校に行くか行かないかを本人に任せるようにしたら、週2回くらいのペースで行くようになった。そろそろ卒業後の進路を考えないといけないが、悩みは尽きない。

「知的障害がないから、頭は回転するんです。自分は通常の子たちと一緒に学べるはずなのに、何でここにいるのかという疑問をずっと持っているんですよ。卒業して障害者向けの事業所に入ったら、またそういう目で見られる。でも、自分は通常の企業や大学には行けない。

 本当は彼女も欲しいけど、『一生彼女なんかできないよ』とあきらめている。それで、何もできない自分なんて、いなきゃいいとか思っちゃうんでしょうね。小学生のころから、『死にたい』と言い出して……」

 つい先日も、些細なことでサチコさんと言い争いになり、ハルト君が「どうせ僕なんていなきゃいいんでしょ! 死ねばいいんでしょ!」と叫び出したのだという。