たった10日でステージが進行

 放射線治療をした部位は再発時の再照射が技術的に可能であるものの、正常組織の累積線量や合併症リスクを慎重に評価する必要があり、選択肢としては注意深く検討される。そこで、より大きな病院でセカンドオピニオンを受けることに。

 10日後のセカンドオピニオンでは、「ロボット手術であれば切除可能だが、それでも嚥下障害は免れず、機能を回復させる再建手術には準備が1~2か月かかる」「手術でがんが取りきれなかった場合は最終的に放射線治療が必要になる」との見解だった。

 さらに、「10日前のCT画像よりも、腫瘍が明らかに大きくなっており、ステージも2に上がった」という衝撃の事実も告げられた。臨床ステージは腫瘍の大きさ、リンパ節転移、遠隔転移を総合して決定されるため、短期間での進行告知は非常にまれだ。

「本当にショックでした。たった10日でステージが上がったと言われるなんて……。がんとわかってから、その日初めて号泣しました」

 厳しい現実に直面したことで、「もう一刻の猶予もない」と覚悟が決まり、すぐに放射線治療を始めることを決断。さらにセカンドオピニオンでは、抗がん剤の併用も提案され、治療方針には納得したものの、再び大きな決断を迫られた。

「抗がん剤は、卵子の数を減少させる可能性がある。今後子どもを望む場合は卵子凍結が推奨されるが、採卵には従来2~3週間かかることが多く、その分治療が遅れる」とのことだった。子どもを諦めてすぐに抗がん剤治療を始めるか、治療開始を遅らせて卵子凍結を行うかを選択しなければならない。

 松本さんには娘(当時5歳)が1人いるが、つわりが非常に重かったため、長い間第2子の妊娠を躊躇していた。しかし、ようやく覚悟が決まり、妊活を始めた矢先の出来事だったのだ。

「つらい選択でしたが、ただでさえ大きくなっている腫瘍を、3週間も放置できないなと。卵子凍結は諦め、放射線治療と同時に抗がん剤治療も始めることにしました」

 しかし、診察室から出たところで、がん患者の心理的フォローを専門とする看護師から「卵子凍結の話だけでも聞いてみたら?」と声をかけられ受診したところ、体内に採卵可能な卵胞が存在していることがわかり、事態は一変。

「一度は諦めましたが、すでにいるならば、と採卵手術を即決。説明によれば妊娠成功率は30%程度、自費診療のため費用は30万~60万円かかるなど、本来であれば検討すべき要素もありましたが、命の可能性があるとわかった以上、決心は揺らぎませんでした」

 何より、この“小さな命の卵”の存在が、その後のがん治療で支えとなったという。

「私がいないと、この子は誕生できない、生きなければ!と。受精卵のエコー写真を握りしめて治療に臨みました」